第60話 やけに可愛い声を出すのね

「にしても残念な有様ね」


 撫子が濡れたズボンを気にした。


「まあ、お茶だし。すぐに乾くでしょう」

「ダメよ。ちゃんと拭いておかないと」

「肝心のハンカチも濡れちゃって」

「それなら……」


 撫子は箱ティッシュを持ってくると、愛理のズボンをペタペタする。


「あっ……撫子ちゃん……股間に触られると、さすがに恥ずかしい」

「やけに可愛い声を出すのね」

「勘弁してくれよ」


 奉仕を強要しているみたいで罪な気分になる。


「もしかしてムラムラしているの?」

「そりゃ、するだろう。このポーズは非常にマズい」

「愛理くんってエッチね」


 撫子の指が太ももをツンツンしてくる。

 うっ⁉︎ と変な声が出る。


「俺より撫子ちゃんの方がエッチじゃないかと、最近は思うようになったよ」

「あら? 褒めてくれているの?」

「まあね」


 撫子は次から次へとティッシュを取り出す。

 白い山が成長していく。


「これって下着の水気までは吸えないわよね」

「もう十分だよ。君は十分やってくれた」


 しかし撫子の手は止まらない。


「新しい下着を買ってきましょうか。近くのコンビニで売っているでしょう」

「えぇ……」


 申し出は嬉しい。

 でも『女の子に下着を買いに行かせる』は男のプライドに関わる。


「いや……ホント……大丈夫だから」

「ふ〜ん……」


 次第に男子たちが集まってきた。

 あの二人、何やってんだ? と。


「ふふっ……」


 撫子が急に笑う。


「どうしたの?」

「パッと見だと愛理くんがお漏らししたみたい」

「その発想はなかったな。女の子にケアしてもらうなんて、俺がクズ人間みたいだ」


 撫子の手がようやく止まった。

 使用済みのティッシュを団子みたいに丸める。


「お祝い、どうしましょうか」

「お祝い?」

「近いうちに神田さんを攻略しちゃうんでしょう。そうしたら私たちはコンプリートする。性交委員の中では一番乗りじゃないかしら」

「ああ、優勝のお祝いみたいなやつか」


 あまり考えてこなかった。

 毎日のミッションに夢中だったから。


「なんか美味しい物でも食べちゃう? 家でも外食でもいいけれども」

「じゃあ、私が何か決めちゃおうかな。あとプレゼント交換しましょうよ。お互いに値段を決めて」

「いいね。想像したら楽しそうだ」


 次の休日が待ち遠しいなと思った時、チャイムが鳴った。

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