第41話 どっちの下着姿が可愛かった?

 ランジェリー屋での顛末てんまつについて。


 あの後、店員さんから怒られた。

『他のお客様の迷惑になります!』

『うちの商品で遊ばないでください!』と。


 全力で謝っておいた。

 お詫びじゃないが下着もたくさん買っておいた。


 バカな学生が変なことやっている。

 人々の視線が痛かったことを、何年経っても忘れないだろう。


「まったく。撫子ちゃんのせいだぜ。なんで九十九さんを挑発したんだよ」

「だってあの子、愛理くんのこと誘惑したから」

「もしかして陰から観察していた?」

「ちょっとだけね」


 発端は八重だったのか。

 ならば向こうが悪いという気もする。


「それで? どっちだった?」

「ん?」

「どっちの下着姿が可愛かった?」

「そりゃ〜」


 撫子が期待するような眼差しを向けてくる。

 その頬はわずかに紅潮しており、胸がドキッとなる。


「撫子ちゃんだよ」

「そう言ってくれると嬉しい」

「やけに弱気な発言じゃねえか」

「だって八重ちゃん、スタイルがいいんだもん」

「へぇ〜」


 今日の撫子はいじらしい。


「そうだ。八重ちゃんに謝っておかないと」


 私が悪かった、ごめん、と。

 送信すると八重からもメッセージが返ってきた。


「九十九さん、何て?」

「悪いのは真実だから。気にしないでって」

「ああ……あいつが戦犯だしな」


 今ごろ八重からお説教されているはず。


 愛理のお腹がぎゅるりと鳴った。

 時刻はすでに夕方である。


「今日の晩飯、何にしよっか? 近場のファミレスで済ませちゃう?」

「そうね……」


 あごに指を当てた撫子の目が、カレー屋の黄色い看板を見つける。


「カレー食べたいの?」

「家でカレーを作りましょう。たまには二人で料理するのも悪くないでしょう」

「おう、いいね。若いカップルみたいだ」


 家の近くにあるスーパーへ寄った。

「最近、お肉が高くね?」なんて話しながら買い物していく。


「デザートは何がいい?」

「アイスクリームにしようかしら」


 箱入りのファミリーパックを買う。

 これなら三種類のフレーバーを楽しめる。


 お会計はカード払いだ。

 政府から支給されているお金が口座に入っている。


「野菜の皮は俺がむこうか。撫子ちゃんの指が傷ついたら嫌だし」

「ちょっと、愛理くん、過保護すぎない? 皮むきくらいできる」

「油はねも心配だよな。炒めるのも俺がやるか」

「私のやることがないでしょう」

「じゃあ、ご飯を炊いて」

「それだけ?」

「あと食器を並べて」

「小学生でもできるわ」


 困ったように笑う撫子がちょこんと体当たりしてくる。


「アンフェアは良くないと思う」

「じゃあ、野菜を切ってもらおうか」

「は〜い」


 風に流された黒髪が触れてきて少しこそばゆかった。

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