第40話 究極の二択、乗り切ります

 さあ、行け。

 八重を選びやがれ。


「そうだな……」


 真実は二つの着衣室を行ったり来たりする。

 結論ありきとはいえ迷うフリは必要だろう。


「俺は……」

「ちょっと待って! 久我山くん!」


 撫子の手が真実の口をふさいだ。


「一ついいかしら」


 耳元でゴニョゴニョと囁いている。

 すると真実の顔は一気に青ざめていった。


「ちょっと、何してるのよ!」


 見過ごせないのは八重である。

 更衣室を隔てている壁を一回殴った。


「久我山くんにアドバイスしておこうと思って」

「絶対に脅しかけたでしょう! 私に投票しないと何かバラすって!」


 すると撫子の手が真実の胸板にタッチした。


「そんなことないわよ。ねえ、久我山くん」

「ま……まぁ……」


 真実の目は泳いでいる。

 どこまでも分かりやすい男だな。


「これは公正な投票なのよ」

「くぅ〜〜〜」


 マズいな。

 八重が劣勢に傾いている。


 全体で二票しかないのだ。

 真実が撫子に投票する。

 愛理が八重に投票する。

 すると結果は引き分けになるとはいえ、禍根かこんのようなものを残すだろう。


 何考えてんだよ、撫子ちゃん。

 愛理がハラハラしながら見守っていると、真実がいきなり頭を下げた。


「すまん、八重」


 まずは自分のパートナーに。


「すまん、愛理」


 そして友人に向かって。


「おいおい、何やってんだよ、真実」

「俺は決められない男だ」

「どうした⁉︎ 一分前の威勢はどこに消えた⁉︎ 罪滅ぼしは⁉︎」

「俺は投票を棄権する。愛理が勝者を決めてくれ」


 出ましたよ、丸投げ。

 愛理は内心で、はぁっ〜〜〜⁉︎ と吠える。


「残念だったわね、八重ちゃん」


 ぐったり項垂うなだれている真実を、勝ち誇った撫子がナデナデする。


「久我山くんに選んでもらえなくて」

「くぅ〜〜〜⁉︎」

「でも愛理くんの投票が残っているから。まだ勝負は分からないわ」

「絶対に倒してやる! この腹黒女!」


 ねぇねぇ、君たち。

 友達なんだよね?

 呆れて言葉も出ない愛理はアハハと笑っておく。


「さあ、愛理くん。残るはあなたよ」

「どっちが勝っても恨みっこなしだから」


 愛理は二つの更衣室を行ったり来たりした。


 撫子と目が合った。

 可愛くウィンクしてくる。


 八重と目が合う。

 投げキッスをもらった。


 おのれ〜!

 真実のヘタレ野郎め〜!

 損な役回りを押し付けやがって!


「よしっ! 決めた!」


 愛理は手を鳴らす。


「おっぱい揉ませろ。揉ませてくれた方に投票するわ」

「はぁ⁉︎」

「うわっ⁉︎」

「だ〜か〜ら〜おっぱいだよ。勝ちたいんでしょ、君たち。俺に揉ませてくれないと負けちゃうよ」

「キモ⁉︎」

「この変態審査員!」

「あれ? 負けてもいいの? プライドを盾にしている場合かな?」

「愛理くん、見損なったわ」

「夢ヶ崎さんに通報するから」

「…………」


 愛理を責めるという一点において撫子と八重が連携する。


 二人の仲を修復するために、わざわざ嫌われ役になるなんて『俺ってどんだけお人好しなんだよ〜』と呆れてしまう愛理であった。

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