第16話 命を削っちゃう奥の手

 うぅ……。

 吐くほど眠い……。

 テスト用紙の文字がフラフラと泳いでいる。


 今は数学のテスト中だ。

 別に苦手じゃない、むしろ得意な方。


 しかし問題は別にある。

『1』と『7』。

『3』と『8』。

『6』と『9』。

 似たシルエットがごちゃ混ぜになる。


『6』と『9』でシックスナイン。

 な〜んて寒いネタで眠気が消えるわけもない。


 仕方ない。

 童貞から教わった奥の手を使うか。


『いいか愛理、この技を使った時、テメーの寿命は確実に削られる。連発するとゴッソリ持っていかれるから注意しな』


 そう前置きされた記憶がある。

 眠気覚ましの秘孔ツボを突くのだ。

 かなり強めに。


 これで童貞は何回も徹夜を乗り切ってきた。

 実績としては申し分ないだろう。


 グサッ!

 愛理は首の後ろを突いた。


 痛さのあまり全身が震える。

 目の奥がチカチカして、大量の血液が脳みそに送られる。


 リミッターの解除だ。

 急に視界がクリアになる。


 残っている問題を一気に解いた。

 これまでの苦戦が嘘みたいにペンが走る。


 ラスト一問もフィニッシュ。

 技の反動なのか左手の震えが止まらなくなる。

 心臓の音だって速いままだ。


 なるほど。

 連発すると確かに死ぬな。


 念のため冒頭から見直した。

 解答欄がズレてました、なんてミスは笑えない。


 二回もチェックしたから大丈夫だよな……。


 残り時間は二十分くらい。

 クラスメイトの様子を観察してみる。


 案の定というべきか、撫子はとっくに寝落ちしている。

 気持ち良さそうにク〜ク〜と。

 机におっぱいを乗せて。


 イージーな問題だけ解いて赤点を回避しちゃう作戦だろう。


 撫子はいつだって手抜きなのだ。

 美容とVRセックス以外は。


 真剣な面持ちでペンを握る生徒もいる。

 神田珠莉とか。


 クラス内の学力は三番目か四番目くらい。

 文武両道のキャラといえるだろう。


 愛理との相性は最悪だ。

『高飛車なキャラって大体ザコでしょう』

 あの一言が絶対に許せないらしい。


 でもなぁ……。

 図星だから怒ったんだよなぁ。


『私のパパは教育委員会に顔が利くんだから!』

 あのセリフが面白かったので、負けないセリフを返してみたくなった。

 ちょっとした遊び心。

 それだけの話。


 次のテストに向けて体力を回復すべく愛理も仮眠しておいた。

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