第15話 もっとも原始的な恋だろう

「あっ⁉︎ 愛理くんの嫁ちゃんがいるよ!」


 次に初姫が見つけたのは撫子である。

 複数の男子に囲まれて楽しそう。


「あれって不倫じゃないの? 二人は同棲しているんでしょ?」

「いやいや、あれが不倫ならダブル不倫になります」

「あはは! 言えてるね!」


 初姫は窓枠にひじをつく。


「嫁ちゃんって、テスト期間中もヤッてんのかな?」

「ヤッてますね。本人いわく、一日でも稼働しない日があるとテクニックが落ちるみたいです」

「プロのサッカー選手は毎日サッカーボールに触れたい、みたいな?」

「そうです。ピアニストが毎日ピアノに触れるのと一緒です」

「ふ〜ん、格好いいじゃん、日和ちゃん」


 モテる女は聞き上手が多い。

 撫子もさっきから相槌あいづちばかり打っている。


「悔しいけど美人だな〜。私が男でも惚れるわ」

「ちょっと腹黒なのですが、そこがチャームポイントだったりします」

「もしかして愛理くん、腹黒女が好きなの? 女の敵だよ。表裏の差が激しいでしょ」

「いやいや、撫子ちゃんはニセ情報をバラまいたり、男女の仲を裂いたりしませんから。ただ本心を隠しているだけです」

「つまり日和ちゃんの本音を知りたいわけか」

「推理ゲームに似ていますね」


 相手のことを知りたい。

 もっとも原始的な恋だろう。


「日和ちゃんと家でパコパコしないって本当なの?」

「当然ですよ。やったら政府から叱られます。俺たちにとってセックスとは研究の対象であり、快楽の道具じゃないのです」

「ぷぷっ! セックス研究家だ〜! 半端ないね〜!」

「官能作家の息子ですから」


 撫子のところに一人の女生徒がやってきた。


「あっ、おさげ眼鏡ちゃんだ」

「生徒会長ですか……」


 吉川恵である。

 毎日おさげ髪というわけじゃない。

 登壇とうだんする日とか、テスト期間とか、臨戦モードの日はおさげ髪というイメージ。


 口頭で注意する恵。

 一方、撫子は眉を八の字にして『すみませんね〜』みたいな顔になる。


「何だろう?」

「テスト期間に男子を誘惑するなとか、そういったクレームでしょうね」

「あはは! 日和ちゃんって魔性じゃん!」

「あの巨乳は勉強の敵ですから」


 恵がきびすを返して去っていく。

 それを見送る撫子の目はゾッとするほど冷たい。


「うわ〜。サイコパスの目だよ〜」

「おかしいですね。撫子ちゃんがあの目になるのは一年に一回くらい……ゲフン……ゲフン……」

「大丈夫? そのうち男子をけしかけて生徒会長にリベンジしない?」

「それはないでしょうが……」

「というかさ、生徒会長に対する男子のヘイトが溜まっているよね。むしろ危険なのは日和ちゃんファンの暴走だったりするのかな」

「あはは〜、久慈先輩って鋭いですよね〜」


 ちょっとマズい……。

 早めに手を打たねば。


 一度だけ撫子と目が合った。

 にこやかに手を振ってきたので、愛理からも振り返しておいた。

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