第14話 あの娘はどんな味だった?

 放課後の時間が好きだ。

 世界がスローペースだから。

 この世が美しく思える。


「そうだ!」


 初姫が大声を出す。


「カスミンとやったでしょ」

「ん? かすみん?」


 ああ……。

 藤宮先輩のことか。


「カスミン、どうだった?」

「普通に良い人でしたよ。一個もトラブルなく終えました」

「そうじゃなくてさ〜」


 初姫が含み笑いする。


「カスミンって初物じゃん。しかも男子と話すの苦手そうだし。やっぱりピュアピュアな味だった?」

「ピュアピュアというより……」


 ちょっと困ったな。

 メタバース空間内での出来事は漏らせない。

 守秘義務というやつだ。


「藤宮先輩をたとえるなら新鮮なミカンですかね。酸味と甘味のバランスが絶妙なフルーツです」

「ほうほう。私は?」

「久慈先輩はアレですね。よく熟れたメロンです」

「なにそれ⁉︎ おばさんじゃん! ウケる〜!」


 お腹を抱えて笑っている。


「でも、ちゃんとカスミンをリードしてくれたんだ。ありがとね」

「久慈先輩から感謝されるのは意外です」

「だって私が背中を押したから」

「ああ……」


 優しいんだな。

 愛理の口辺がほころぶ。


「カスミンとどんな話したとか漏らせないんだっけ?」

「俺の口から語るのは無理ですね。でも、おおむね良好な評価をいただけました」

「ふ〜ん……」


 初姫の目が何かを見つける。

 下校している佳純だった。

 友人と談笑している。


「カスミン、以前より少し色っぽくなった気がする」

「事実なら嬉しいです。異性に興味を持ってもらうのもプロジェクトの狙いですから」

「それって少子化対策につながるから?」

「むしろ離婚率の抑制ですかね」


 セックスの相性が良くなくて……。

 そんな理由で離婚に向かう夫婦は少なくない。


「だから俺たちがセックスについて考える機会を提供するのです。正直、保健の授業を受けたとしても、人生を変えるほどのインパクトはないでしょう。実技が有るのと無いのとでは天地の差ってやつです」

「なるほどね〜」


 窓から吹き込んでくる風が初姫の髪をなでる。


「愛理くんは話すことが大人だね」

「まあ、政府の人の受け売りですけどね」

「にしても私はメロン味か〜。ちょっとショックだな〜」

「むしろ何味だと思っていたのですか?」

「イチゴ味がいいな!」

「願望ですか⁉︎」


 不覚にも声に出して笑ってしまった。

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