第13話 一番頭のヤベーやつじゃん!

 学園がやけに静かだ。

 グラウンドにも体育館にも人影がない。


 テスト期間なのである。

 もちろん愛理や撫子も家で勉強している。


「あ〜い〜り〜く〜ん!」


 この猫なで声は初姫。

 弾力のあるおっぱいが背中にぶつかる。


「これからパコろ〜。テスト期間だから空いてるっしょ。お姉さんに大人の勉強を教えてほしいな〜」

「残念でした。久慈先輩と似たような思考の持ち主が他にもゴロゴロいるのです」

「えっ〜!」


 初姫がショボ〜ン顔になる。


「明日は? 明後日は? その次は?」

「はいはい、近日中にはお相手します。そういう契約ですから」

「やったね!」


 ハグされる力が強くなる。


「久慈先輩ってホント俺のことが好きですよね。こんなロクデナシ人間のどこがお気に召したのか、逆に教えてもらってもいいですか」

「インスタントな恋だよ〜。後腐れがないっていうか〜。ドロドロした関係って無理なんだよね〜」

「もしかして、古い恋人からストーカーまがいの被害を受けた経験がおありで?」

「どうして分かったの⁉︎ まあ、中学時代だけれども」

「何となくですよ、何となく」


 当時のカレがいかに頭のヤベーやつだったのか。

 十分くらい話に付き合わされた。


「私って男運がないんだよね」

「それはアレですよ……」


 初姫のおでこをツンツンする。


「ちょっとヨシヨシされると舞い上がっちゃうから。そういう体質なのでしょう」

「えっ〜! 舞い上がってないよ〜!」

「無自覚ですか……」


 軽いボディタッチは好感度を上げる、みたいな俗説がある。


 あれは半分嘘で半分真実だ。

 嫌悪する人もいれば興奮しちゃう人もいる。

 男とか女とか関係なく。


 セクハラの基準に個人差があるのと一緒。

 肩に触れられても平気な人は平気だろう。


「久慈先輩はですね、心のハードルが低いのですよ。三センチしか心の壁がないのです。血圧が上がったとか、血糖値が上がったとかを、恋心と勘違いしちゃう人間なのです」

「それって一番頭のヤベーやつじゃん! おにぎり食べるたびに恋しちゃうじゃん!」

「最近、ラーメン屋の男性店員に一目惚れしませんでした?」

「あ、一目惚れしたかも」

「同じメカニズムですよ。ラーメンを食べて、血圧と血糖値が上がって、ハイテンションになった影響でしょう」

「うわ〜! ざっこ〜! 私って超ざっこ〜!」

「自覚があれば大丈夫でしょう」


 居酒屋の女性スタッフが可愛く見えちゃう。

 これも同じロジックだと思う。


 愛理はお酒を飲めないから未経験だけれども。


「あと久慈先輩はご存じないかもしれませんが、男はご機嫌な女性に弱いのです」

「そうなんだ⁉︎ 初耳〜」

「上機嫌な女性を見ているとヤリたくなります。それが男のさがってやつです」

「つまり愛理くんも私とヤリたいの?」

「好きですよ、久慈先輩のことは」

「初姫って呼んでほしいな〜」

「ベッドの上限定です」

「もうっ!」


 初姫は仔犬みたいにニパァと笑った。

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