第46話 この世界は辛すぎる……
この状態でヤってみよ、と心菜から誘ってきた。
「いや、それはマズいような……」
「でも一回ヤってみたい。どんな感覚なのか知りたい。お兄ちゃんも気になるでしょう」
「そりゃ、まあ……」
好奇心には勝てない。
猫をも殺すというしな。
「痛かったら教えてくれよ」
「うん……」
心菜の体に覆いかぶさる。
サラサラの黒髪に指を通してみる。
妊婦の体って美しいんだな。
絵画のモチーフにも選ばれるわけだ。
すっかりトロけた表情の心菜を抱き寄せてから、軽くキスしておいた。
……。
…………。
帰り道。
久しぶりに兄妹で乗る電車は空席が目立つこともあってか、リラックスした空気が流れていた。
反対側に若いカップルが座っている。
女の子が男の子にもたれて寝ている。
なぜ愛理がその男女を気にしているかというと、ちょうど心菜も似たようなポーズで寝ているからだ。
電車がブレーキを踏んだ。
衝撃で心菜が目覚める。
「あれ? ここは……」
キョロキョロする心菜。
車内アナウンスを耳にしてハッとする。
「終点まで来ちゃった⁉︎」
愛理はクックと笑う。
「薬を盛られたみたいに寝ていたな。不眠症の心菜でも熟睡するんだな」
「うっ……ごめん……仮眠のつもりだったのに」
「長時間メタバース空間にいたから。思ったより疲れるのが普通だ。俺は慣れているから平気だけれども」
「お兄ちゃんは寝なかったの?」
「心菜の寝顔が可愛いからな。ずっと観察していた」
「はうっ⁉︎」
とりあえず電車から降りた。
駅前にはバスターミナルがあり、小さな商業施設が建っている。
心菜を連れてファミレスの入り口を潜った。
中途半端な時間だからガラガラしている。
ホールに出ているスタッフだって暇そうだ。
心菜を座らせてメニュー表を広げてあげた。
好きなやつを何でも頼め、と。
「いいの?」
「たまには二人で飯を食いたいだろう」
「撫子ちゃんとのご飯は?」
「いいんだよ。今日は心菜を優先する」
「ッ……⁉︎」
心菜はメニュ表で顔の半分を隠してしまう。
「それにな、俺は毎日撫子ちゃんと飯を食っている。向こうだって一人で食べたい時もある」
「じゃあ、いただきます」
ピザやパスタといった洋食を中心にオーダーした。
ドリンクバーも忘れずに付けておいた。
「一緒にジュースを取りに行こうぜ」
「うん!」
ファミレスのドリンクバーは味を混ぜたりすると楽しい。
心菜はオレンジジュースにコーラを足している。
「
「うん、炭酸の強さが良い感じなんだよ」
愛理はメロンコーラをチョイスしておく。
「久しぶりのコウノトリはどうだった?」
「とても楽しかったよ」
「どんなところが?」
「それは……」
恥じらいながら髪をいじくる心菜。
「世界にお兄ちゃんと二人だったから。心菜の理想だなって思って。ずっとあそこに住みたいと思った」
「ずっとか」
愛理はストローで飲み物を混ぜる。
「そんな日が来るかもしれないな。現実世界からの解放みたいな」
「うん、SF映画みたいな世界がいい」
心菜のような少女があと七十年も生きるには、この世界は辛すぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます