第20話 その権利、百万円で買うわ

「うわぁ〜」

「会長が負けたってマジ?」

「あれだけ一条のこと見下していたのに」

「足元すくわれるとかザコでしょ」

「てか、むしろざまぁ〜」


 辛口の声は止まらない。


「あ〜あ、会長ショック受けてる」

「いい気味っしょ。前から偉そうだったし」

「そうそう、勉強できるからって」

「胸がスッキリしたわ〜」

「一条に感謝だな」


 これがヘイトを溜めてきた人間の末路。

 勝っている内はいいが、一回ミスすると手のひら返しを食らう。


「会長、だんまりかよ」

「自分が不利になったら口数が減るとか……」

「それって小学生じゃん」

「あ〜あ、幻滅したわ」


 恵の表情は前髪に隠れている。

 でも手は悔しさと情けなさで震えている。


「生徒会長、前に言いましたよね。俺なんかにテストで負けるわけない。もし負けたら何でも言うことを聞くって」

「ちょっと! 一条!」


 また珠莉が横槍を入れてくる。

 最大級のにらみを利かせると、チワワ女子は一発でたじろいだ。


「神田さんが身代わりになってくれてもいいんだぜ。生徒会長の代わりに俺の要求を一個だけ聞く」

「それは……だって……VRセックスの実技を受けろって言うんでしょう」

「もちろん。俺はそのために在籍しているからね」


 珠莉よりも恵に言い聞かせておく。


「どうします、生徒会長さん。もし神田さんを説得してくれると言うのなら、今回はあなたから手を引きますが……」

「できるわけないでしょう! 同級生を売るなんて真似!」

「ですよね。会長は女子に優しいですからね」


 男子には当たりがキツい、と暗に皮肉っておいた。

 すると外野から嘲笑ちょうしょうが起こる。


「……ないです」

「はい?」

「受けたくないです……VRセックスのレクチャーだけは……」

「おやおや、会長さんの言葉とは思えませんね。だって約束したじゃないですか」

「でも無理なんです……拒否権を行使させてください」

「ふむ、困りましたね」


 以前に『何でも言うことを聞くの中にVRセックスは含まれるのか』と念押ししておいた。

 それに対して恵は『もちろん』と言い切った。


 自分が負けるわけがない。

 過信していた証拠だろう。


「もう高校生じゃないですか。約束を破ると親や教師を悲しませますよ」

「でも嫌なものは嫌なの!」

「弱りましたね〜。VRセックスは安心安全なんだけどな〜。どうしたら受けてくれますかね〜」


 ツカツカと足音が寄ってきた。


 たくさんの男子を引き連れた撫子である。

 掲示板の人だかりがモーセの十戒みたいに割れる。


「ご機嫌よう、生徒会長さん」


 二つの巨乳が恵にプレッシャーを与える。


「愛理くんとワンツーフィニッシュしたって聞いたから。お祝いを伝えようと思ってね。羨ましいわ〜。記念に撮影しておかないとね〜」


 魚拓と言わんばかりにスマホで撮影する撫子。


「で? 約束は?」

「ッ……⁉︎」

「何でも愛理くんの言うことを聞くんだっけ?」

「あれは……その……本気じゃなくて」

「ふ〜ん、往生際が悪いのね」


 すると撫子はニコニコ笑顔で悪魔みたいなことを言い始める。


「ねぇ、愛理くん。この子に命令する権利、私に譲ってくれない? 百万円くらいで買い取るわ」

「……マジで?」

「愛理くんがずっと徹夜で頑張ってきたのに、今さら態度を保留してくるとか、失礼にも程ってものがあるでしょう」

「まあ……」

「愛理くんが許しても私が許さないから」

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