第57話 ツインテールの高さがズレている

 翌朝。

 久我山真実からメッセージが届いた。


『絶対にVRセックスやりたくない女子がいるのだが、どうやって説得すりゃいいんだ???』という内容だった。


『セールスの仕事と一緒だよ。しつこく交渉するしかない。粘り強くアピールしろ』


『いや、無理ゲーだろ。納豆を嫌いな人間に納豆を売り込むような行為だろ』


『食わず嫌いな人が多いからな。とりあえず味方を増やせ』


 何個かテクニックを伝授しておいた。

 偉そうにレクチャーしているが、すべて本で知ったり人から聞いた知識だ。


『サンキュー。もうちょっと頑張ってみるわ』


『あんまり根を詰めるなよ。メンタルが一番大切だからな』


『愛理って優しいんだな』


『九十九さんには相談しないのかよ』


『相談しない。弱いところ見せたくない』


『好きな女の子には時々弱いところ見せた方がいいぞ』


『……マジ?』


『九十九さんが風邪引いたりしたら助けてあげたくなるだろう』


『そりゃ、まあ……』


『一緒だよ。弱音を吐きまくるのはアレだが、時にはパートナーを頼れよ』


 スマホを鞄に突っ込んだ。


 ここは朝の教室である。

 七割くらいのクラスメイトが登校している。


 珠莉と目があった。

 露骨に嫌そうな顔を向けられる。


「神田さん、あと一人だぜ」

「何がよ?」

「このクラスでVRセックスのレクチャーを受けていない女子」

「ッ……⁉︎」

「あ〜、すまんすまん。厳密には撫子ちゃんが対象外だわ」

「くぅ〜〜〜! キモっ! 撫子ちゃん撫子ちゃんって! あんたら夫婦かよ!」

「吠えるね〜」


 すると話題の撫子がやってきた。

 珠莉のツインテールを左右にびよ〜んと引っ張った。


「神田さん」

「ひぇ⁉︎ 急に後ろに立たないでよ!」

「今日のツインテール、高さが微妙にズレているわよ」

「えっ? うそ……」

「動かないで。直してあげるから」


 撫子は慣れた手つきでヘアスタイルを整えてあげる。


「ほら、できた」


 そう言って手鏡を渡した。


「あ……ありがとう」

「愛理くんとVRセックスしていない女子、この学校で残り七人よ」

「ッ……⁉︎」

「男子たちが賭けをしている。誰が最後の一人になるかって」

「何ですって⁉︎」

「神田さん、最後の一人になっちゃうかもね」

「うっ……」


 半ば放心している珠莉の手から鏡を取り上げると、撫子はさっさと去っていった。


 やるな〜、撫子ちゃん。

 一撃で珠莉のメンタルをへし折ったよ。


「神田さん、少し焦ったでしょ」

「誰が焦るか⁉︎」

「大丈夫だよ。売れ残りとかいう声は無視すればいい」

「売れ残り⁉︎」


 激しく動揺している。


「VRセックス指導は死んでも受けないんだっけ? ポリシーがあるのは立派だと思うよ。でも方針転換するのは恥ずかしいことじゃない。気が変わったら教えて。俺のスケジュールを空けておくから」

「その余裕……ムカつく……」


 珠莉は強めに床を蹴った。

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