第58話 取り残されていく焦り
その日は朝から小雨が降っていた。
『湿気が強い日はくせ毛がね〜』みたいな話をクラスの女子がしている。
愛理は自席でスマホを触っていた。
進捗率は九十八パーセント……残っているのは四人だけ。
ゴールまでもう一息だ。
残り二十人を切ったあたりから不思議な現象が起こっていた。
それまで
『近いうちにVRセックスの講義を受けたいのだけれども……』
と自ら申し出てきたのだ。
周りの友達が全員VRセックスを体験してしまった。
未経験なのは自分だけ。
取り残されていく焦りが彼女らの背中を押したのだろう。
『VRセックスは悪いものじゃない』
愛理の布教が実を結んだともいえる。
「どう、神田さん、レクチャーを受けてみる気になった?」
「誰が受けるか!」
「元気だね〜」
男子たちの注目は『誰が最後の一人になるのか?』という一点に尽きる。
愛理がヒアリングしてみた感じだと『神田珠莉に一票』の声が多かった。
「神田さんって最後の一人になってもVRセックスしないつもり?」
「やらない!」
「それって俺が嫌いだから?」
「そうよ!」
「ふ〜ん……」
愛理はスマホを渡す。
「何これ?」
「性交委員の一覧。他の高校に派遣されている男子たち。これは特例措置なのだけれども、助っ人を呼ぶことも不可能じゃない。神田さんだけのスペシャル待遇」
「へぇ〜」
「気になる男子がいるなら、こっち側で調整しておくけれども」
「…………」
「あ、気になる男子がいるんだ」
「やらない!」
スマホを返してもらった。
珠莉は強がっているが、もう一押しという気がする。
「どうやったら神田さんからYESを引き出せるかな〜」
「諦めなさい。どうせお金目当てなのでしょう」
「お金目当て?」
「知っているわよ。進捗率によって政府から報奨金が出るのでしょう」
「へぇ〜。よく知っているね。出来高みたいなシステムだよ」
「お金のために努力するなんて最低!」
「…………」
久しぶりにイラッときた。
なぜ腹が立ったかというと、珠莉はわざと挑発しているのではなく、本心で愛理のことを『拝金主義者』と信じているからだ。
勘弁してくれよ。
お金をもらっているのは認める。
少なくない額だろう。
言い方は良くないが、VRセックスしてお金をもらっている。
でも金目当てで頑張れるほどヌルくない。
愛理にしろ、撫子にしろ、真実にしろ、八重にしろ、個々人のポリシーを持って動いている。
金、金、金。
そういう発想をしちゃう珠莉の方がお金に染まっているのではないか。
「じゃあ、神田さんに提案。五万円あげるから俺とVRセックスしよ」
「い〜や〜だ!」
「じゃあ、十万円」
「あんたって本当に最低!」
「神田さんならそう言うよね〜」
まるで砦だな。
だからこそ攻略する瞬間が楽しみというやつだ。
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