第43話 兄妹なのにセックスレスとか……

 カレーを食べた後、撫子がヨーグルトを出してくれた。

 美容にいいブルーベリジャム付きだ。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん、セックスしよ」

「ゲームしよ、みたいなノリで言うなよ」

「したいもん! そのために会いにきたもん!」

「でもなぁ〜」


 愛理はスプーンをくわえる。


 家にはコウノトリが一台しかない。

 心菜とやろうと思ったら学校へ連れていく必要がある。


 今日は日曜日。

 部活動の生徒に見つかるだろう。


「ボウリングとかカラオケにしないか。ゲーセンでもいいけれども。昔からメダルゲームとか好きだろう」

「やだやだ〜! セックスがいい〜!」

「あのな、心菜。コウノトリは遊びのための道具じゃないんだ」

「毎日女を連れ込んでいるくせに! 実の妹にだけ冷たいとかお兄ちゃんサイテー!」


 おい、違うぞ。

 実の妹だから問題なんだよ。


「そうよ、愛理くん。妹からのセックス要求を拒絶するとか兄として失格よ」

「あれ……撫子ちゃんも心菜の味方なの? セックス推進派なの?」

「兄妹なのにセックスレスとか、この世の不幸でしかない」

「いやいや、兄妹はレス以前にセックスしないから」


 心菜を見た。

 泣きそうな顔をしている。


 そういや愛理が実家を出ていく日……。


 心菜は拗ねまくっていたな。

 一緒に連れていって! と泣きついてきた。


『あのな、心菜。お兄ちゃん、電車で三十分くらいの場所に引っ越すだけだから。すぐに会えるから』


 そう説得して何とかなだめた記憶がある。


 完全に失敗した。

 コウノトリを使ったVRセックスをマスターする時、毎日のように心菜に協力してもらったから、すっかり兄依存症になっている。


「お兄ちゃん、心菜のことが嫌いなの?」

「いや、嫌いじゃない」

「心菜とVRセックスしたくないの?」

「う〜ん……心菜の性癖がおかしくなった点については、俺に落ち度があったと思っているよ」


 すると心菜はテーブルを叩いた。

 バンッ! という音がリビングの空気を震わせる。


「お兄ちゃん、嘘つき。善人ぶらないで」

「俺が嘘つき?」

「いつでもVRセックスの相手してやる、て約束してくれたのに」

「そんな約束したっけ? いや、したな。あの時は心菜が窓から身を乗り出して……」


 このまま飛び降りて死んでやる!

 そう言って約束を強要してきたのだ。


「ダメよ、愛理くん。兄妹の約束は守らなきゃ」

「撫子ちゃん、薄々気づいているよね。心菜って自分の命を人質に取るんだよね。こういうの、兄として治してあげようと思っているのだが」

「ありのままの妹を受け入れなさい。心菜ちゃんは重度のメンヘラ病を患っているの。もう手遅れなの。メンヘラの部分も愛してあげなさいよ。身投げしたらゲームオーバーなのだから」

「言っちゃったよ……しかも手遅れって決めつけちゃったよ」


 心菜にとって撫子は『家族じゃない唯一の理解者』だから、


「お姉ちゃん、大好き〜」


 と甘えている。

 撫子ちゃんはメンヘラの扱いが上手いのだ。


「分かったよ」


 愛理は自分の髪をクシャクシャした。


「これから準備する。学校に連れていってやるよ」


 俺たち兄妹の運命はどこで間違えてしまったのだろうか、と天を仰ぐ愛理であった。

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