第2話 伝説のAV女優の娘

 今から二十年くらい昔。

 AV女優の蒼樹あおきりんごが大ブレイクを果たした。


 グラマラスな肉体とエロティックな演技力で健全なる男子を十八禁の沼へ引きずり込み、数えきれない下半身を熱くさせたのだ。


 出演したタイトルは千本以上。

 自叙伝もヒットさせた蒼樹りんごは、数年間AV女優のトップに君臨していた。

 大活躍の最中さなか、AV監督との結婚を機に引退したのである。


 引退会見したのが偶然にも5月12日(フローレンス・ナイチンゲールの日)だったことから、熱心なファンの間では『ナエチンボーイの日』と呼ばれている。


 何を隠そう蒼樹りんごの血を引くのが日和撫子なのである。


 女子高生離れした美ボディもさることながら、定期的に魅せてくれる官能ポーズの数々、


・机におっぱいを載せて省エネ

・美味しそうに棒アイスを食べる

・猫と戯れる時にスカートの中身がががががぁ⁉︎


 といったサービス精神を駆使することで、男子生徒のスケベ心をつかむことに大成功していた。


 蒼樹りんごの再臨。

 ハイスクールに舞い降りた女神ミューズ。


 性交委員なら誰しも特殊なバックボーンを持っている。

 中でも日和撫子がエリート中のエリートと呼ばれる所以ゆえんである。


 ……。

 …………。


 教室に向かっている時だった。


「あ〜い〜り〜く〜ん!」


 猫なで声の女性に絡まれた。

 見るからにギャルと分かる女生徒が四人、愛理を取り囲む。


「ねぇねぇ、またVRセックスやってよ。サイコーに気持ち良かったからさ」


 リーダー格の久慈くじ初姫はつきが甘えてくる。

 俗にいう白ギャルで、明るい金髪をゆるくカールさせている。


「あのですね、久慈先輩、以前にも説明しましたが一人一回なのです」

「でも日和ちゃんは二週目に入っているじゃん」

「あれは一通りやったから」


 愛理たちは進捗率でポイントを重ねていく。


 生徒一人につき一回まで加算対象。

 しかしコンプリート後は二回目でも加算される。

 さらに二週目をコンプリートすると三回目が加算されるという寸法だ。


 初姫らのグループとは経験済み。

 VRセックスの再実施は可能だが、享受できるメリットは皆無であり、時間とエネルギーのロスでしかない。


「でもさ、でもさ、性交委員って性にまつわるお悩みに応えるのも使命なんだよね?」

「それは否定しません」

「愛理くんとセックスしたい! それが私の最大の悩みなんだ!」

「笑顔で言われましてもね……」


 手を引いてくれるどころか、


「えっ〜! 初姫だけずるい!」

「私だって愛理くんとセックスしたい!」

「もういっそ四人同時に相手しちゃってよ!」


 段々とやる方向に傾いている。

 しかも全方位から胸を押しつけられるという物理攻撃のおまけ付き。


「ダメです」

「どうしても?」

「俺が暇になるまで待ってください」

「む〜」


 初姫がふくれっ面になる。

 かと思いきや、目尻に涙を浮かべた。


「愛理くん、ひど〜い! 愛理くんのテクニックが凄かったから、もう彼氏とのセックスに満足できなくて、別れてきたばかりなのに!」

「それは申し訳ないことしましたね」


 元カレに。


「ヤダヤダ〜! 愛理くんとやるの〜!」

「困ったな……」


 愛理の頭上でピコンと電球が光った。


「だったら、こうしましょうよ」


 初姫の肩に手をかける。


「分かりました。先輩たちのために時間を捻出しましょう」

「本当⁉︎ 私たちが予約していいの⁉︎」

「一つお願いがありますが……」


 進捗率をアップさせる方法。

 さっそく発見してしまった。

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