第3話 口コミ紹介システム

「知り合いの紹介?」

「VRセックス未経験者なら誰でもいいです。俺のところへ連れてきてください。一人の紹介につき一回お相手します」

「それって十人紹介したら十回パコってくれるの⁉︎」

「はい、十回パコります」

「おおっ〜!」


 マーケティングの口コミ手法に近いだろう。


 女性の方がおしゃべり好き。

 男性より効果が見込めると何かの本で読んだことがある。


「もちろん無理強いはNGですよ。本人の意思を尊重して下さい。それが学園側と締結しているルールですから」

「分かった! 先輩らに任せとけ!」

「頼りにしています」


 初姫らは意気揚々と去っていった。

 一人残された愛理は淡いため息をつく。


 ようやく気づいた。

 自力で女子を口説こうとするのが無理筋だった。


 一人 vs 女子全員じゃ勝ち目がない。

 そもそも女子を同一視すべきじゃないのだ。


 十人十色だから『学園でVRセックスなんて言語道断!』という層もいれば『最新テクノロジー半端ねぇ! 日本すげぇ!』みたいな層もいる。


 初姫らはVRセックスの良さを知っている。

 フットワークが軽くて交友関係も広い。

 加えて愛理に対するヘイトが無い。


「俺は日本政府の手先だから、特定の生徒とグルになるのは褒められた行為じゃないのだが……」


 背に腹は変えられない。


 翌日の放課後。

 さっそく成果が舞い込んできた。


「久慈さんに後押ししてもらったのだけれども……」


 三年生の藤宮ふじみや佳純かすみだった。

 地味っぽい女子として認知されているが、すらっとした高身長でスタイルも申し分ない。


「久慈先輩とは時々話すのですか?」


 移動がてら軽くコミュニケーションを交わす。


「久慈さんは小学校と中学校が同じだったから」

「所属しているグループは違うけれども、昔話に花を咲かせられる仲みたいな?」

「そうだね。お互いの家に何回か行ったかな。もう何年も前の話だけどさ」


 佳純がぎこちない笑顔を浮かべる。


「もしかして緊張しています?」

「う……うん。私って久慈さんと違って彼氏いた経験ないし」

「でも恋人が欲しくないわけじゃない?」

「そりゃ……まあ……」


 初々しいな、と愛理は思う。


「俺には守秘義務があります。プライバシーを他の生徒に明かすことはありません。何個か藤宮先輩にお聞きしたいことがあるのですが……」

「えっ⁉︎ 私に関すること⁉︎ 何だろう……」

「理由ですよ。今までVRセックスを避けてきた理由ってありますか?」

「う〜ん……」

「怖そうだから?」

「いや、怖いというより……」

「義務じゃないから? 面倒くさいと思った?」

「そういうわけでもなくて……」


 佳純は周囲を警戒するようにキョロキョロした。


吉川きっかわさん」

「ああ……」


 二年生の吉川めぐみ

 帝明高校の生徒会長だ。


「あの人が『強制じゃない。受講する義理はない。雰囲気に流されないように』とアナウンスしていたでしょう。そう言われると尻込みしちゃうよね」

「多そうですよね。藤宮先輩みたいに考えちゃう人」

「たぶん……」


 愛理は内心で舌打ちした。


「久慈先輩からどういう風に説得されました? 印象に残るフレーズとかありました?」

「う〜ん……そうだなぁ」


『アレを経験しないと絶対に人生損する!』

『知識ゼロだと彼氏を作っても幻滅される!』

 この二つが響いたらしい。


「二つ目は脅しじゃないですか」

「だよね」


 程よくリラックスしたところで目的の部屋が見えてきた。


「酒やタバコとVRセックスは違います。厳しいテストを経て安全性が保証されています。これから日本の輸出産業を支えることが期待されています」


 愛理はポケットから鍵を取り出した。


「やっぱり恥ずかしいな。バーチャルとはいえ一条くんに裸を見られちゃうのは」

「当然ですよ。自転車に乗るのは不安。小学校へ行くのは不安。プールで泳ぐのは不安。何だって最初は不安でしょう」


『VRセックス技能研修室』のドアを開ける。

 パソコン室のような匂いが鼻を突いた。

 どうぞ、と佳純を中へいざなう。


「でも安心してください。その不安を取り除くために俺や日和撫子が存在しています」

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