第10話 2:6:2の法則みたいなやつ
撫子ちゃんは食べ方までエロい。
唇についたパスタソースを舌でなめる。
ツヤツヤの黒髪をかき上げながら食べる。
いや、特筆すべきほどのエロじゃないのだが……。
日常に隠されているエロというやつは、なぜか目が離せなくなってしまう。
「どうしたの、愛理くん」
「撫子ちゃんは本能的に男のツボを刺激してくるなって。さすがAV女優の娘だよね」
「うん、褒めてくれてありがとう」
「嬉しいと思っている?」
「もちろんよ」
一ミリも嬉しくないだろうに……。
百点のスマイルで『ありがとう』を返せちゃう。
これも男子を首ったけにする手練手管というやつだ。
食後の片付けは愛理がやった。
コップを洗ってテーブルを拭く。
次はお風呂の掃除。
ピカピカにしてから湯張りボタンを押す。
家事の分担は決めていない。
手の空いている方が勝手に動く。
ルールがあるとすれば……。
互いの部屋へ勝手に立ち入らないこと。
互いのスマホは勝手にのぞかないこと。
この二点くらい。
それでトラブルに発展しないのだ。
撫子ちゃんと相性バッチリな証拠じゃないだろうか。
リビングに戻ってきた。
撫子はスマホを見ている。
流しているのは恋愛リアリティ番組。
一人のイケメンを複数の女子が奪い合うやつ。
あるいは一人の美女を複数の男子が奪い合うやつだ。
「どこが面白いの?」
と質問したら
「人間心理の勉強になるところ」
と返された。
撫子ちゃんって大人だな〜、と思う。
プロ意識の高さは親譲りなのである。
愛理は席についた。
ルーズリーフを一枚置く。
ボールペンで横線を二つ加える。
三段になる。
一番下には『久慈初姫』と書く。
真ん中には『藤宮佳純』と書く。
一番上には『吉川恵』と書く。
すると撫子が耳からイヤホンを抜いた。
「また悪いことを考えているの?」
「2:6:2の法則ってあるだろう」
「働きアリの法則みたいな」
「そうそう」
パレートの法則(80:20の法則)の派生といわれる。
たとえば自分がコミュニティーに属していたら、
全体の二割は『一条愛理』に好意的
全体の六割は『一条愛理』に中立的
全体の二割は『一条愛理』に敵対的
という風に分かれるらしい。
どんな人気者にも二割のアンチは付きものだ。
「口コミ紹介キャンペーンだっけ。あれでボチボチ成果をあげたでしょ」
「微々たるものだね。あれはオマケという位置づけ」
「ふ〜ん……」
愛理は中段にある『藤宮佳純』をペン先でツンツンする。
「中立的な人間に有効なんだよね。あと少しのキッカケで動いてくれるタイプ」
「でも六割いるじゃない。ボリュームゾーンよ。力を入れるべき部分だわ」
「チッチッチ」
自分たちのミッションは進捗率百パーセント。
興味がない人間こそ狙い撃ちにすべき。
「攻略すべきはこっち。吉川恵のいるグループだ。じゃないと俺の進捗率は八十パーセントで頭打ちになる」
「吉川さん? ああ、生徒会長の……」
撫子が片目をつぶる。
「あの人、私のことが大嫌いみたいね」
「でしょうね。学園の風紀を乱すビッチ売人と認識している」
「売人って……ホント……愛理くんは昭和ね〜」
脚をバタバタさせて笑う撫子。
「でも、そうね……」
ピンク色の舌が
「あの生徒会長さんに吠え面をかかせてくれたら、愛理くんのこと、けっこう尊敬しちゃうかも」
「男を焚きつけて敵対している同級生にリベンジするとか、撫子ちゃんって腹黒だよね」
「でも、仕掛けてきたのは向こうよ。陰に陽に邪魔してくるのだから」
「犬猿の仲ってやつか。そりゃ、仲裁しないと」
「でしょ」
撫子はミントタブレットを取り出した。
一粒は自分の口に入れて、もう一粒は愛理に食べさせてくれる。
「悪女だから幻滅した?」
「いや、大好き」
「私も〜」
爽やかな空気が
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