第48話 ギャラリーを熱狂させる
愛理はテニスコートに立っていた。
ボールをトスして力強いサーブを放つ。
対戦しているのは
女子テニス部のエースで、ポニーテールが似合うスレンダー美人だ。
ジリジリと照りつける太陽が暑い。
インドア派の愛理としてはさっさと終わらせて屋内に避難したいところ。
互角のラリーがしばらく続いた。
瑠衣のボールがふわっと浮いたので、強打をコートの隅に叩き込んでおいた。
ギャラリーが一瞬シーンとなる。
審判がゲームセットを告げる。
息を呑んで見守っていた男子たちが大歓声を上げた。
「すげぇ、一条!」
「本当に勝ちやがった!」
「あいつ、テニスできたのかよ!」
瑠衣が悔しそうにラケットを振る。
スポーツ女子だから最後は握手してくれた。
「知念さん、約束だぜ。ちゃんとVRセックスのレクチャーを受けてくれよ」
「分かっている。約束は破らない」
ワンセット勝負して、もし愛理が勝ったらVRセックスの相手をしてもらう、という条件だった。
瑠衣は強者である。
女子テニス部のエースだから当たり前だ。
愛理が勝てたのは、ひとえに男子ギャラリーの声援(瑠衣に対するブーイング)が大きかったせい。
付け加えておくなら、スタミナでねじ伏せた感もある。
女子たちのブーイングを浴びる中、愛理はスマホを取り出した。
「知念さん、いつ予約する?」
「逆に聞くけど、いつなら空いてるの?」
「いつでも。知念さんの予定を最優先するぜ」
「じゃあ、明日の放課後。早く済ませておきたいから」
「はいよ」
「一個だけ教えてくれないか。どうして今までVRセックスのレクチャーを避けてきたの?」
「試合が近いから。部活に専念したかったの」
「なるほど、ね」
ギャラリー席に向けて手を振った。
その中には拍手する撫子の姿もある。
「エンターテイメント化するなんて愛理くんは狡猾ね」
貶しているのか褒めているのか分からない言葉をもらった愛理は苦笑いする。
「でも、楽しかっただろう。VRセックスを賭けた戦いって」
「序盤に負けていたのはわざと? 相手を油断させるための罠?」
「まさか。本気でやった結果だよ。見ての通りギリギリの勝利ってやつさ」
これで女子テニス部はコンプリート。
愛理のミッションは着々とゴールに向かって進んでいる。
「とうとう進捗率が九十パーセントを超えそうね」
「まあね。ラストスパートってやつだよ」
ギャラリーの中に神田珠莉の姿もあった。
フェンスに手をかけて悔しそうに歯噛みしている。
珠莉はまだ『VRセックス指導は死んでも受けない!』の立場を貫いている。
しかし、攻略法がないわけじゃない。
果物がゆっくり熟れるように時期を待つだけ。
「愛理くん、今日は疲れたでしょう。帰り道にカフェでも寄っていかない?」
「撫子ちゃんから誘ってくれるなんて嬉しいね」
「私が奢ってあげる。良いゲームだったから」
「マジで? 撫子ちゃん、優しい」
愛理は借り物のラケットを男子テニス部員に返してから帰路についた。
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