第49話 もはや限界突破した変態さんね

 よくクーラーの効いたカフェに入った。

 女子高生や仕事帰りのサラリーマンがリラックスした時間を過ごしている。


「一回、カフェのケーキを食べてみたかったんだよね」

「愛理くん、一回も食べたことないんだ?」

「まあね。ケーキといったらケーキ屋のやつを食べたいでしょ」

「カフェのケーキもおいしいわよ。ファミレスのコーラがおいしいように」


 そりゃ、ファミレスのコーラはおいしいよ。

 原液があるんだし……というツッコミは控えておいた。


 まずはコーヒーを二つ注文した。

 愛理は普通のチーズケーキを、撫子は紅茶フレーバーのミルクレープを注文する。


 フリーの飲料水があったので紙コップ二つ分もらう。

 窓際の席が空いており、向かい合う形で座った。


「撫子ちゃん、アレやった? 妊娠できるやつ」

「やってないわよ。機能があるのは知っているけれども。一応プロトタイプという扱いでしょう」

「俺はやってみた」


 コーヒーを飲もうとした撫子が目を丸くする。


「えっ? 愛理くん、自分のお腹を大きくしたの? 変態なのは知っていたけれども、妊娠したい願望があるのは知らなかった。もはや限界突破した変態さんね」

「自分で試すわけない! 心菜で試したんだよ!」


 つい大きな声を出してすぐに反省する。

 ここは家じゃない。


「ふ〜ん、自分の妹を妊娠させたんだ〜」

「変な言い方するなよ。メタバース空間だと兄妹とか関係ない。それだけの話だよ」

「ふ〜ん、ふ〜ん、ふ〜ん」


 撫子はニヤニヤしながらミルクレープを食べる。


「あれって男の人でも妊娠できるそうよ」

「えっ⁉︎ マジで⁉︎」


 妊婦の大変さを味わってみろ、という発想だろうか。


「ほら、BLのディープなやつだと男が男を妊娠させるネタとかあるでしょう。ああいう願望を体現させるためじゃないかしら」

「ああ……」


 愛理は苦い顔を浮かべる。


「まあ、女を妊娠させたい女の人もいそうだしな」

「そうそう」


 撫子が楽しそうに笑う。


 心菜のメンタルは今のところ安定している。

 怪文書を送ってくることも最近はない。


『電話した〜い!』はよくある。

 急に心が寂しくなるらしい。


 よく世間では『依存体質』を悪いものとして扱う。

 でも誰にも依存せず、誰からも依存されない人生というやつは、ちょっと寂しくないだろうか。


「はい、愛理くん。お口あ〜ん」


 撫子がミルクレープを一口くれる。


「おいしい?」

「アレだな。撫子ちゃんが好きそうな味だよな」

「何それ。変なの」

「甘すぎない。舌触りがいい。口の中が渇かない。そういうデザートが好きだろう」

「さすが愛理くん。私の好みをちゃんと押さえているんだ」

「何日一緒に暮らしていると思っている」


 撫子が嬉しそうに首を傾げる。


「愛理くんって、私が思っているより良い男かもしれない」

「またまた〜。そうやって歯の浮くようなお世辞を〜」

「本当よ。心菜ちゃんの面倒をちゃんと見ているし。世の中にはシスコンを嫌う女性もいるけれども、私は好きよ。もし自分に男の子供と女の子供が生まれたら仲良くしてほしいでしょう」

「へぇ〜」


 その子供の父親って俺かな? と思った愛理はカットしたチーズケーキを撫子に食べさせてあげた。

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