第29話 禁じられた愚者の遊び

 楽しいといえばもう一個。

 愛理には他人に話せない趣味がある。


 まず撫子が入眠するのを待つ。

 そっと部屋を抜け出して、忍び足でコウノトリの部屋へ向かう。


 VRセックスには一人モードがある。

 トレーニング用の人工AIと交わるのだ。


 これが中々の完成度だったりする。

 油断すると本物の人間と区別できないほどに。


『メインフレームに接続します……』と機械の音声が流れてくる。

 電脳の街へやってきた愛理は、さっそくメニュー画面からパートナーを召喚した。


『蒼樹りんご』をチョイス。

 何を隠そう撫子ちゃんのマミーである。


 蒼樹りんごは現在四十歳くらい。

 しかし愛理の前にいる人工AIは二十歳くらいの容姿をしている。

 AV女優として最盛期だった頃のプロポーションを再現しているのだ。


 おっぱいに触れてみる。

 撫子に負けないくらいの弾力がある。


「毎度のことながら素晴らしい……」


 シリコン製のラブドールが遠いレガシーに思えてくる。


 ホステスさんが好きそうな黒ドレスを着せてみた。

 小物はイヤリングとネックレスを選択。


 三歩下がって観察してみる。

 撫子の面影を残しつつ、母性を感じさせるところがそそる。


 性交委員になるにあたり、愛理は何個かリクエストを出した。

 その目玉が人工AI蒼樹りんごの実装だった。


 人気のAV女優とVRセックスしたい。

 その需要は確実に眠っている。


 もし将来自分のビジネスを持つなら、この分野に人生を捧げてみるのもアリだろう。


「じゃあ、行きましょうか」


 愛理が手を差し出す。


「お願いします、ご主人様」


 呼称は自由に設定できる。

『あなた』『愛理くん』『旦那様』何でもアリだ。


 好感度をいじることも可能。

 今はMAXにしているが、初期化すれば『初めまして』から入れる。


「りんごさんは似ています。私の初恋の人に」

「あら、そうなのですか」


 りんごが少し動揺する。


「その方は今どちらに?」

「この世界にはいません」

「ごめんなさい……」


 この世界にいない=亡くなった、と解釈したりんごはショックを受ける。


「私を見たら辛くなりませんか?」

「いえ、むしろ心が救われます」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 りんごが微笑む。

 バーチャルと理解していても愛らしい。


「りんごさんは俺のことが好きですか?」

「もちろん! とても愛しております!」

「それってどのくらい好きですか?」

「全部です!」


 即答である。


「すべて捧げたいくらい愛しております! ご主人様がお望みとあらば、どんな服装だってできますし、どんな性技にだって耐えてみせます!」

「失礼ですが、りんごさんのご職業は?」

「その……セクシー女優です」


 思いっきり照れるりんご。


「優しいですね、りんごさんは。きっと将来、素敵なお母さんになるでしょうね」

「はぁ……」


 りんごの手を引いたままラブホテルの入口を抜けた。

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