絶望を知る者よ。王として崇められる者よ。その男の存在が私をゆさぶる
米国デトロイト川で溺死体を引き上げる男。
夫の不倫に悩み相談に来る女。
香港からはじまる連続溺死事件。
──すべての謎は、かつて中国王朝で栄華を誇った王族の末裔に繋がる。
『彷徨《さま》える王』
黒城櫻子、36歳。
二流弁護士として、私生活では同じ事務所の先輩弁護士と同棲している。
彼との優しい関係に不満はない。結婚に踏み切れないのは、たぶん、19年前に消えた兄への思いをいまだに引きずっているからだろう。
黒城の育った家庭は複雑だった。
優しくおおらかな母。母が事実婚をした義父。彼は、頼り甲斐がないが優しい男だった。その義父が香港からつれてきた飛び抜けて美しく神秘的な少年の四人家族だ。
兄の名前は白川ジオンという。思春期をともに過ごしたジオンは美しく中性的な魅力にあふれ、誰もが強く惹きつけられるカリスマ性があった。
13歳で日本に来て、18歳でわたしの前から消えた兄が、19年後、米国のデトロイト川で溺死体として発見される。
兄の過去を追求するわたし。
中華の古い王家の血族として、理不尽な世界で生きた、孤独で寂しい兄を探す旅がはじまる。
★この物語はフィクションであり、実在の人物や団体などとは、いっさい関係ありません。