まっすぐ走れ、逃げるときでも



 主人公櫻子は35歳の女性。職業は弁護士。
 彼女にはかつて兄がいた。十代の多感なころ、突如家にやってきた血のつながらない兄ジオン。彼は知的で美しく、いつも超然としていた。そのくせ暴力に躊躇することもない。すくなからず常識の枠の外にいる義兄であった。
 だが、やがて彼は姿を消す。そして、19年後、アメリカのデトロイトで溺死体となって発見されるのだ。それと前後して、主人公の周囲ではおかしな事件が起き始め……。

 櫻子は、兄の死を知り、取るものもとりあえず国際線に飛び乗ってしまうのだが、そこからが恐怖のはじまりだった。つぎつぎと巻き起こる謎。降りかかる暴力。義兄の死の真相とはなんなのか? 彼が連続殺人犯であるというのは本当なのか?


 めくるめくサスペンスの連続に息もつけない展開が続き、最後まで読者を飽きさせません。
 作中のセリフに、「逃げるときは、決して後ろを振り向くな。前だけ向いて走れ」とあります。これが本作のひとつのテーマとなっています。
 じっさいには逃げるときに重要なのは、追跡者の目をくらませることです。が、本作のキャラクターたちは、良くも悪くもまっすぐ全力で走る。そのまっすぐなところが交錯し、衝突を生む。そんなキャラクターのまっすぐさと裏腹に、つぎつぎと展開するサスペンスの妙。
 暴力と陰謀、深い歴史の闇を湛えつつも、どこか潔いすがすがしさがある本作。それは逃げるときでも全力で、まっすぐ走るキャラクターたちの魅力あってのことかもしれません。
 緊迫の糸が最後まで切れないサスペンス・ミステリー。楽しく読ませていただきました。

 横溝正史賞、入選することを願っています。


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