人気アイドルの自殺というセンセーショナルなテーマを扱いながら、単なる追悼や事件の顛末で終わらない。
その最大の魅力は、事件が引き起こす凄まじく「生々しい」現実の描写力。
熱狂的なファン文化の凄まじい熱気と、その熱気が冷めた後に残る凄惨な現実が、読者に深い悲しみと衝撃を与えます。
特に、熱心なファンであった少年・山口の視点を通して描かれる個人的な悲劇と、その赤裸々な感情の吐露は、まさに作品の心臓部。
アイドルの死という巨大な衝撃と、一人の少年の抱える切実な悲痛が克明に描き出されたその筆致は、読み手の心に深く、そして生々しく突き刺さる傑作。
冒頭は、衝撃的な展開から始まります。
人気アイドルがどうして亡くなってしまったのか、死の真相を主人公と共に推理しながら進んでいくストーリーです。
時代背景が昭和。1986年代という事もあって、今とは少し違ったアイドルファンの様子がとてもリアルに描かれています。
大好きだったアイドルをこの世から失って、絶望しながらも思わず事故現場へと向かった主人公。
そこで、以前コンサートで出会った「山口」という青年に出会います。
……この二人が、大好きなアイドルが「なぜ自死によって亡くなってしまったのか」について思考を巡らせていくのですが、その過程が自然な流れで、かつ引き込まれるような展開になっていて素敵でした😊
物語の内容も、結末も、決して心地の良いものでは無いのですが……「青春」「昭和」というフィルターを掛けて読んでしまうせいでしょうか。爽快感があり、「面白かった」と言って良いのか分かりませんが💦
「読ませて頂いて良かった」と思いました。
冒頭から引き込まれる作品でした。
読ませて下さってありがとうございました🌠
1986年4月、アイドル歌手岡村まり子が自殺する。そんなショッキングな内容から始まる物語。
だが、しかし、ちょっと調べていただければ分かることだが、この同年同月に自殺したアイドルが実在する。そして、この短編小説の前半部分、あまりにリアル過ぎる描写は、おそらくかの実在したアイドルのファンであった作者の実体験であると思われる。
この事件はぼくもリアルタイムでニュースを見ていて、写真週刊誌に掲載された記事も読んだ。現場には行かなかったけれど、地面に横たわる遺体と周囲に流れる何かの液体が撮影されたその写真はショッキングだった記憶がある。
この短編の前半は、おそらく作者が実体験した事実だと思います。あまりにも描写がリアル過ぎる。そして、作者がその場で出会った男……山口。彼は実在するのだろうか?
ここから物語は徐々に狂気を孕むような展開を見せる。もう創作されたフィクションなのか、隠された事件の真相を小説という形で暴露しているのか、見分けがつかなくなるのだ。空恐ろしいほどである。こんな恐ろしさは、『影武者徳川家康』を読んで以来だ。史実なのか? はたまた虚構なのか。
そして、物語は悲しくも美しい結末を迎える。
青春時代の幻影。失われた時間軸への憧憬と悲哀。
読了したときには、これがフィクションであろうがノンフィクションであろうが関係なくなっていた。現実はそうであったのかも知れない。できれば、そうであってもらいたい。そんな願いを、いつのまにかぼくは抱いていた。