第25話 仕方ない

「誰から、なんて? そう言えば、この前の夜も誰かから連絡来たよね? 同じ人?」


 赤嶺が気安い雰囲気で尋ねてくる。気安い雰囲気なのになぜか威圧されるのはなんだ?


「あー……同じ奴、だよ。でも、別に急ぎの用事ってわけでもない」

「そっかー。で、誰? 別に私は青野君の彼女でもないし、教えられないってことはないよね? まさか、最近貢いでるどっかのお店の女の子とか?」

「はは……そんなわけないだろ」


 ある意味貢いでいるとも言えなくはないが、決してお店の女の子ではない。その辺の普通の女子高生である。

 それにしても、赤嶺の視線がどんどん鋭くなっていっているのはどういうことだろう。俺が何をしたというのか。


「男? 女?」

「……どうしてそんなに気にするんだ?」

「いやー、オトモダチとしてね? 青野君が変な女に騙されてないかとか、ちょっと気になっちゃうわけよ。何かヤバそうな人との繋がりがあるなら、ここで止めて上げるのも友情かな、とかさ?」

「……だ、大丈夫だよ。心配させるようなことはしてない」

「だったら素直に話してくれても良くない? これでも同じ会社で四年以上過ごした仲なんだしさぁ、全く信用できない相手ってわけではないでしょ?」

「そうだなー……」


 赤嶺には、現状をきちんと話しておくべきか。よく考えれば、特に秘密にしなければならないことでもない気がする。

 迷っている間にも、藍川から続きのメッセージ。


『急にごめんなさい。忙しいですよね。特に急ぎというわけではないので、お電話の件は忘れてください。午後からもお仕事頑張ります』


 返事が遅いから、俺を困らせたと思ったようだ。確かに少々困ったが、藍川が気にすることではない。

 うーん……非常に迷うが……変な落ち込み方をして、バイトでミスとかされても困るしな……。ただ、ここで電話するなら、赤嶺にも藍川のことは話さなきゃいけなくなる雰囲気……。


「……ちょっと、外で電話してきていいか?」

「ん? いいよ? ここで電話するのはお客さんに迷惑だもんね。いってらー」

「……悪い、すぐ戻る」


 俺は席を立ち、一度店の外へ。藍川に電話すると、すぐに応答があった。


「よぅ、どうした?」

『青野さん! ごめんなさい、急に変なお願いをしてしまって……』

「別に謝ることじゃないさ。バイト先でまた何かあったか?」

『いえ、何もありません。特にミスもなくて、順調です』

「そうか。バイト仲間からいやがらせとかされてないか?」

『大丈夫ですよ。皆さん、良い方ばかりですから』

「そうか。なら良かった」

『私が電話したかったのは、ただ、青野さんの声を聞きたかったからで……』

「……そ、そうか」


 予想通りではある。しかし、実際にそんなことを言われると気恥ずかしいな。


『あ、あの、青野さんもお昼ですか? その、例の同期入社の方と……』

「ああ、そうだよ。今、お店に入って注文が終わったところ」

『そうだったんですね。ごめんなさい、中断させてしまって……』

「まぁいいさ。でも、相手を待たせているし、あまり長電話はできないな」

『そうですよね。ごめんなさい。その、声を聞けただけで、元気出ました。もう大丈夫です。わざわざありがとうございました』

「これくらいならお安いご用だ。午後も頑張ってくれよ」

『はい。それでは、また』

「うん。またな」


 通話が切れる。本当に短いやりとりだったが、俺の声が聞きたくて電話してきたとか、可愛すぎかよ。

 元カノと付き合い始めた頃を思い出してしまうな。あの時はお互いにウブで、お互いに初めての彼氏彼女で、本当にしょうもないことをやらかしてきたものだった。

 気持ちを落ち着けるため、少しだけ時間をおく。昼間はまだ日差しが温かいので、頭を冷やすにはあまり得策ではなかった。

 ともあれ、二分ほどクールタイムをおいたら、俺はスマホをポケットにしまって店内に戻る。席に着くと、赤嶺は意味深な笑みで俺を見つめてきた。


「で、誰?」

「笑顔ですごむな。怖いだろ」

「すごんでないよ? 私はただ素直に笑っているだけ」

「嫌な笑顔だ。……まぁ、いいや。実のところちょっと相談したい気分でもあったんだ。ちゃんと話すから、誰にも言うなよ?」

「それは内容次第。犯罪に関わっているなら、誰かに言っちゃうかも」

「犯罪には関わってない。別にやましいことをしているわけでもない……はずだ」

「ふぅん。とにかく話してみ。お姉さんが聞いてあげるから」

「同い年だろうが」

「誕生日は私が何ヶ月か先だったはず」

「誤差だろ」

「いいから説明」

「はいはい」


 改めて、俺は赤嶺に藍川との関係を説明する。

 階段でうずくまっているのを発見したこと、困窮しているようなので支援を申し出たこと、これから数年間は支援をしていくと約束したこと、藍川からは日々のレポートが来ること、そして、どうやら藍川が俺に対して好意を持ってしまっていること。

 説明している間に注文していた料理も来て、それを食べながら話を続けた。赤嶺は俺のお人好しぶりをちょいちょいなじってきたが、頭ごなしに俺の行いを否定することはなかった。

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