第22話:新しい武器と、新しい任務
ホームセンター滞在二日目になる。
午前中のトラック部隊は半休のスケジュール。
朝食を終えて、俺も自由時間となる。
「さて、それなら目的の商品でも、探しにいくか」
店内の商品は自由に使っていいと、高木社長から許可を得ていた。
俺はホームセンター内を散策していく。
「あった。やはり、ここか」
建築資材売り場で目的の品を発見。
長さ2メートルほどの円柱型の鉄製の棒を一本。
太い鉄の鎖も一本。
あと拳より大きな鉄の重石が二個だ。
「さて、加工できる場所は、あそこか」
住人たちが自由に加工できる区画が、ホームセンター内にはあった。
俺も鉄の棒を持って、金属加工用の工具を手にする。
「ん? 兄ちゃん、新人の奴だろう? 何か作るのか?」
通りかかった職人が、興味本位で声をかけてくる。
「ああ。
「槍だって? そんなに全部鉄製じゃ、実戦じゃ疲れて使えんぞ?」
職人が軽く馬鹿にしてくるのも無理はない。
何しろ普通の人間なら、この2メートルの金属棒は持ち歩くだけ精いっぱい。
戦闘で長時間振り回すことは不可能なのだ。
「試作品だ。あまり気にするな」
「そうかい。それじゃ怪我しないように頑張りな、兄ちゃん」
たぶん試作品は失敗すると思っているのだろう。半笑いで職人は去っていく。
「さて、加工するか」
朝一だということもあり、加工場を利用している職人は少ない。
俺は作業を開始する。
――――ウィーン!
太めの金属棒の先端を、鋭くなるように削っていく。
「……よし、できた。こんなものだろう」
完成したのは金属棒の先端を鋭利に尖らせたもの。
長槍というよりは“2メートルの釘”といった様子だ。
「少し不格好だが、まあ、いいだろう」
慣れない金属加工は、なかなか難しいもの。
だがこの新武器で必要な見た目ではなく、重量と鋭さなのだ。
「……《収納》」
周りに誰もないことを確認してから、長槍を【収納袋】にしまう。
重さや長さの制限はないから、持ち運びには便利な機能なのだ。
「さて、次はこれを加工したいが、やはり本職に頼むか」
次の新しい武器も金属加工する必要がある。
加工場で作業している職人たちを見回す。
「あの男にしよう」
慣れた手つきで金属の溶接作業をしている男がいた。
前から近づき声をかけていく。
「すまないが。この鎖と重りを、溶接してくれないか?」
「はぁ? 溶接して欲しいだと? こっちは作業で忙しいだよ、アホがぁ!」
作業の邪魔をされて、溶接職人はイラついていた。
睨みをきかせてくる。
おっと。これは礼儀を欠いた失念だったな。
俺はリュックサックから、作業の対価品を取り出す。
「依頼料はこれでどうだ?」
「――――っな⁉ 煙草と酒だと⁉」
俺が提示したのは少し多めの煙草と酒。
この溶接職人からは酒と煙草の匂いがしていた。かなり好きなのだろう。
だから相手の好みに合わせて、これまで俺が集めておいた品を提示したのだ。
「もちろん、やらせてくれ、その仕事! すぐにやる!」
「いいのか? 忙しいのではないか?」
「このご時世、そんな貴重品を出されたら、最優先するに決まっているだろう! どれ、貸してみろ!」
溶接職人は態度を一変させて、仕事に取りかかる。
俺が渡した鎖と重り二個を、溶接台にセットする。
「この鉄の塊を、こっちの鉄の鎖の両端に溶接すればいいのかい、兄ちゃん?」
「ああ、そうだ。見た目はどうでもいいから、頑丈に頼む」
「それならお安い御用だ。そこで待ってろ!」
――――ジュー!
職人は慣れた手つきで溶接していく。
さすがは本職といったところ。
あっという間に完璧な溶接作業が完了する。
「あとは熱を冷めたら完成だ。ところで兄ちゃん、これは何に使うんだ? 車でもけん引する鎖か?」
「いや、それは“
溶接職人に簡単に説明する。
“
使い方としては遠心力を利用し、鉄の重りで殴打したり、鎖で絞めあげたりする。
また相手の足めがけて投擲して、巻きつけて捕獲にも使える万能武器なのだ。
「ん? それって忍者映画の鎖鎌みたいなヤツか?」
「ああ、そんなものだ」
「なるほどな。ん? でも、こんな重い鎖を、兄ちゃん振り回すことはできるのか? プロレスラーだって無理じゃねぇか?」
溶接職人が首を傾げるのも無理はない。
俺が作ってもらったら分銅鎖の重量はかなりのもの。
普通の人間は持ち歩くだけで精いっぱい。
振り回すことなど不可能なのだ。
「試作品だ。あまり気にするな」
「そういうことか。おっと、冷めてたぞ。ほれ、それじゃ怪我しないように頑張りな、兄ちゃん」
「ああ。こちらこそ感謝する」
完成品を受け取り、俺は立ち去っていく。
「……《収納》」
また周りに誰もないことを確認してから、分銅鎖を【収納袋】にしまう。
「これで作りたかった武器は、何とか手に入ったな」
どちらの武器も狩猟を手伝っていた時期に、俺が愛用していた得物。
だから対モンスター用にどうしても作りたかったのだ。
「今回は鉄製だから、威力も楽しみだな」
当時は今のように超重量の鉄製はなく、木製や頑丈な紐の品だ。
だが今の俺はインナーに【付与魔術】で身体能力を強化している。
普通の人間は使えない超重量武器も扱えるのだ。
「さて、この後は……ん? 社長か」
そんな時、パンチパーマの大柄な男、高木社長が近づいてくる。
立ち止まって話を聞くと、俺に頼みがあるという。
「どういう内容だ?」
「実はこれから例の食料倉庫の最後の偵察の仕事がある。よかったら同行してくれないか?」
「偵察だと? ああ、問題はない」
あと個人的にも興味がある仕事。
“百匹規模の巣はどんな感じなのか?”
この目で見ておきたいのだ。
「そいつは助かる。それじゃ鉄男に付いていってくれ」
「鉄男だと? どうして、あいつが?」
あの短め金髪の若者は、はっきりと言って頼りない。
思慮深いはずの高木社長の、人選理由が謎だった。
「あいつは昔、その倉庫で働いていたから、中に詳しいのさ」
「そういうことか。それなら分かった。同行しよう」
本来なら俺一人で偵察した方が、何倍も安全。
だがボスの命令なら無下には断れない。
鉄男と合流して、偵察することにした。
「アンタも偵察に行くって、マジで?」
「ああ、そうだ。よろしく頼む、先輩」
「別にいいけど、あんた喧嘩もしたことないっしょ? お荷物じゃん? なんかあったら置いていくからな?」
「ああ、そうしてくれ」
はっきり言って、鉄男は
サバイバル活動では自分の身を守ることが最優先なのだ。
「それじゃ付いてきて。ぼやぼやしていたら置いていくかよ?」
こうして生意気で勘違いな鉄男と共に、食料倉庫に偵察に向かうのだった。
◇
食料倉庫の近くに到着する。
「……はぁ……はぁ……はぁ……アンタ、体力だけは……あるみたいじゃん……」
到着前に鉄男は早くも息を切らしていた。
途中から俺が先頭を歩いたため、スタミナが切れたのだろう。
「ふぅ……でも、力と喧嘩は、俺さまの方が何倍も上な訳? わかるっしょ?」
だが負けを絶対に認めたくないのだろう。
愛用の鉄パイプを振り回しながら、自分を大きく見せてくる。
「ああ、そうだな。それより、あの倉庫の内部について、教えてくれ、先輩?」
だが俺は他人に構っている暇はない。
相手を持ち上げて、内部の情報を聞きだす。
「ちっ、仕方がねぇから、教えてやるよ。えーと、あそこが入り口が正面ゲート。あと、裏には第二ゲートと従業員入り口があるわけ」
倉庫は横長の長方形の形。
前後に大型車両が入っていける入り口がある。
今は少しだけ開かれているが、暗くて中まで確認できない。
「社長の作戦だと、最初は正面から強襲部隊が攻撃をしかけるって。その隙にトラック部隊が裏口に突入。食料を奪っていくのさ。どうだ、ずげぇ作戦だろ⁉」
まるで自分が考えたかのように、鉄男は誇らしげしている。
明日に迫った大作戦を前にして、この若者も高揚しているのだろう。
「ああ、悪くない作戦だ、先輩」
鉄男はどうでもいいが、作戦自体は悪くはない。
今回の作戦の肝は、
強襲部隊はあくまで囮で、ひたすら耐久に徹するだけ。
盾や投石で耐久に徹していれば、正面部隊の被害は少ないだろう。
(問題があるとしら、裏のトラック部隊の方か)
それに比べてトラック部隊は危険が高い。
何しろ倉庫内に潜入する必要があるからだ。
(中の様子が不透明だと、トラック部隊は全滅する危険性もあるな)
倉庫内はうす暗く把握しづらい。
いくら囮部隊が引きつけてくれていても、裏に
だから今回の作戦の本当の肝は、裏口付近の詳細な情報なのだ。
「先輩、もう少し偵察してもいいか?」
「はぁ? どうしてそんな危険なことする必要あるわけ? やるんだったら、アンタ一人で行ってよ?」
「ああ、もちろん。許可を感謝する」
先輩の許可はおりた。
それに足手まといがいない方が、俺の情報集は何倍も効率的になる。
鉄男には感謝しかない。
「それじゃ、俺さまは先に帰っておくから。俺さまの責任になるから、死なないでね、アンタ」
「ああ、善処する」
鉄男と別れて行動を開始する。
「あの倉庫の内部か……」
気持ちを今まで以上に引き締める。
これから向かうは百匹クラスの大きな巣。
今までとは危険度のケタが違うのだ。
「ふう……いくか」
こうして俺は単身で倉庫内に潜入していくのであった。
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