第33話:(勝利から二日目の午前)【閑話】:真美の気持ち
《OL岩倉真美(21歳)視点》
これはレンジが
今日も朝から誰もが忙しく働いていた。
男衆は戦いの後始末や外壁バリケードの補修。
倉庫からの物資のピストン運送で、早朝から忙しく作業している。
また女衆も忙しく働いていた。
倉庫内の片付けや、医療経験者による負傷者の治療。
更に食事の準備と後片づけ。
衣類や寝具の補修など、平和な時よりも女衆も忙しい毎日なのだ。
だがそんな忙しい仕事中でも、女たちは元気に口も動かしていた。
◇
今も洗濯しながら三人の若い女衆が、雑談に花を咲かせている。
「ねぇ、真美って……」
今日の雑談のターゲットは、一緒に仕事をしている真美だ。
「“あのレンジさん”と付き合っているの?」
「私も気になっていたの! どうなの、真美?」
住民の中でレンジの評価は絶賛、爆上がり中。
彼は女衆の危機にさっそうと駆け付けた救世主。
「えっ? わ、私とレンジの仲⁉」
そんな沖田レンジと真美は一緒に、このホームセンターにきた新人組。
だから二人の本当の仲を、若い女衆はゴシップのように知りたいのだ。
「ええと……それは……」
まさかの質問に、真美は洗濯を干す手を止めてしまう。思考がショートしまったのだ。
そんな中、真美は出会いから思い出していく。
◇
(レンジと私の関係……か)
初めてちゃんと話したのは、今から約二週間前。
世界が崩壊しして、自分の部屋で生き延びていた真美の前に、いきなりレンジが姿を現したのだ。
(最初の印象、はっきり言って、“悪かった”だったな、レンジは……)
何しろ少しだけ食料を分けただけ、突き放してきたのだ。
その後に助けてもらったのも、将来的な“種の保存”のコミュニティーを形成のためだ。
向こうに悪意はないが、冷静に考えたら、レンジは倫理的にはかなりアウトな男だ。
(でもレンジ……頼りになるし、やっぱりカッコイイんだよね……)
最近の真美は気がつくと、レンジのことばかりを考えている。
特に夜になると無性にムラムラしてしまうのだ。
(で、でも、私たちは付き合ってもなんだから、そんなのはダメよね、やっぱり! 仮に私がレンジのことを好きだとしても、あっちは全然私のことを見てないんだから……)
レンジは真美に対して、特別な感情では接してこない。
将来的な“種の保存”とは言っていたが、向こうはあくまでギブ&テイクのビジネスライクな関係なのだ。
だからレンジからは“恋や愛”という感情を、真美は感じたことがない。
(でも、レンジって、なんだかんだ言って、私に優しいんだよね……)
真美は気が付いていた。
レンジは自分が宣言しているほど、冷徹な男ではないことを。
舌打ちをしながらも、弱い者を放っておけない優しい人であることを。
トラウマで外に出られなかった私を、レンジは叱咤激励して再起させてくれたことを。
あと水問題の解決のために、このホームセンターまで連れてきてくれたこともあった。
だから最初は彼を嫌悪していた真美も、気がつくと魅かれていたのだ。
(それにしても、あの時のレンジはカッコよかったな……あの時は……)
一昨日の激戦時、ホームセンター内に数匹の
事務室で子どもたちを隠れていた真美は、命の危機に陥った。
――――ズッヤァ!
だがどこからともなく駆け付けたレンジが、
あの時のレンジは真美に取って、白馬の王子様のように見えていたのだ。
(はぁ……レンジと……付き合いたいな……)
真美は心の奥底から、ため息をつく。
21歳だが色々あって、今まで付き合ってきた男性は一人もいないのだ。
(絶対に死ぬ前までに、素敵な彼氏を付き合いたいな……というか、レンジと一緒になりたいな……)
真美が生き延びたい理由は、意外と乙女チックだった。
◇
「どうしたの、真美?」
「えっ……? あっ……」
女衆から声をかけられ、真美は妄想世界から戻ってくる。
今、彼女は洗濯中に質問をされていた最中だったのだ。
「だからレンジさんとは、どういう関係なの、真美は?」
「もったいぶらないで、教えてよ?」
「えーと、私とレンジは……」
真美は頭をブルブルして、妄想の中のレンジの男根を振り払う。
「……そう、“相棒”みたいな関係よ!」
とっさに口からでた言葉で、二人の関係をごまかす。
「へー。相棒なんだ?」
「なんかカッコイイ関係だったんだね、二人は」
「それなら私も狙っちゃおうか、レンジさんを?」
「ずるい! 私の方が先に気になっていたのよ!」
「えっ……レンジ、って人気があったの⁉ えっ? えっ……」
若い女衆の言葉に、真美は顔が青くなる。
何故ならこの女衆たちは、性行為に関しては積極的な子が多い。
気に入った男衆がいたら、一晩の関係もしちゃう子たちなのだ。
あと、胸やお尻が大きいくて、真美から見てもエッチな身体をしている。
こんなエッチな女の人に言い寄られた、レンジは断る訳はないのだ。
だから真美は声を上げる。
「あのね! えーと、レンジと話す時は、できたら私を通してもらえたら助かります。ほら、“相棒”なので相方のスケジュールをしないといけないので!」
焦った真美は、意味の分からないことを口走る。
言っている自分で意味不明な理論だ。
「あっはっは……もちろん冗談よ、真美!」
「あんたの好きなレンジさんには、手は出さないわよ!」
「あんたの気持ちはみんな知っているんだから、そんなに焦らなくてもいいわよ」
「そ、そっか……うん。ありがとう……」
からかわれていたことに気が付き真美はホッとする。
怒るよりも、安堵と感謝の方が大きいのだ。
「でも、油断はしちゃだめだよ、真美」
「レンジさんはカッコいいし頼りがいがあるから、これから女が寄ってくるわよ?」
「ちゃんとアピールして追いかけていかないと駄目よ!」
「えっ? そ、そうかもね。うん……頑張ってみる」
女衆の声援を受けて、真美は小さくうなずく。
(レンジに付いていくか。でも付いていくには、もっと私が強くならないと……)
こうして自分の気持ちに改めて気がついた真美は洗濯後、レンジの元へ相談に向かうことにした。
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