第30話:戦いの後に

 ホームセンターでの激戦から日が経つ。

 この数日間、ホームセンター組は慌ただしい日々だった。


「……おし! 外壁の修理ができたぞ!」

「……よし。次は裏口の修理にいくぞ!」


 職人たちが優先的に行ったのは、穴が開いた外壁と、バリケードの補修。

 他の子鬼ゴブリンが攻めてくる前に、ホームセンターの防御力を強化していたのだ。


 職人たち以外も、他の場所で忙しく働いていた。


「……おい、こっちの食料を優先的には運べ!」

「……だがホームセンターの方が置く場所が無いぞ?」

「……駐車場にでも積み上げておけ!」

「……よし、どんどん詰み込め!」


 勝ち取った倉庫から、トラック部隊が食料をピストン輸送の連続。

 ホームセンター内と駐車場には、山のような食料が詰みあがっていた。


「……よし、これで荷物は最後だ!」


 空になった食料倉庫は放棄することになった。

 中には子鬼ゴブリンの死体と、エサの死体が溢れているため、伝染病が発生する危険性があるからだ。


「……みんな、下がれ。火をかけるぞ!」

「……飛び火しないように、作業していくぞ!」


 空の倉庫にガソリンで火をつけておく。

 二度と子鬼ゴブリンの巣にされないための処理だ。


 そんな感じでホームセンター組は総動員で、戦いの後処理していった。


 ――――そして戦いから5日後の夕方。


 ホームセンター内で宴、祝勝会が開かれることになった。


 ◇


 祝勝会が始まろうとしていた。


 ホームセンター内の食事場、中央広場に住民全員が集合。

 俺は少し離れた場所で待機いる。


 少し高い台の上に、高木社長が登壇する。


「……という訳で、乾杯だ、お前たち!」


「「「かんぱ――――い!」」」


 社長の掛け声に続き、全員が叫び杯を掲げる。


 大人たちは戦利品の酒を。

 子どもたちはジュースで乾杯だ。


 女衆のリーダー、女将が乾杯後に声を上げる。


「さぁ! 今日は、たくさんご馳走を用意したよ! 遠慮しないで、どんどん、お食べ!」


 料理コーナーには大皿で料理が並んでいた。

 米料理と麺料理、肉料理、倉庫で勝ち取った品物だ。


 あと俺が“鶏肉だ”と言って渡した、子鬼ゴブリンのモモ肉料理もある。美味そうなタレで豪快に焼かれていた。


「「「美味そう!」」」


 乾杯の後は食事タイム。

 老若男女を問わず、誰もが豪華な料理に感動していた。


 世界が崩壊してから三週間以上、誰もが毎日我慢して生活してきた。


「「「うめぇえ!」」」


 だが今日は勝利の祝う特別な食事会。

 誰もが豪華な料理に、舌鼓をうっていた、料理を堪能していた。


「この唐揚げ、美味しいね!」

「こっちのスパゲティーも美味しいよ」


 特に子どもたちは喜びを爆発させている。

 ハムスターのように料理をほお張っていた。


「ジュース美味しい!」

「ポテトチップスも美味しね!」


 特に戦利品のジュースとお菓子が大人気。

 誰もがキラキラさせて笑い声を上げていた。


 もちろん喜んでいるのは、子どもたちだけはない。


「かぁああ! ビールって、こんなに美味い飲み物だったんな!」

「こっちの焼酎も最高だぜ!」

「よし、今日は無礼講だ! じゃんじゃん飲んでいこうぜ!」


 男衆も笑顔で酒を味わっている。

 倉庫から調達してきた酒を、誰が美味そうに流し込んでいた。


「こら、男衆! あんまり飲み過ぎるんじゃないよ! 約束とおり、ほどほどだよ!」


 そう苦言しながら、さすがの女将も今日だけは優しい。

 彼女も誰よりも嬉しそうに、皆を見つめているのだ。


「「「うぃ――――す!」」」


 祝勝会、男衆の中に悪酔い、泥酔者はいなかった。


 彼らは知っているのだ。

 子鬼ゴブリンの脅威は、まだ他に残っていることを。


「よし、次は、こっちの高級酒を開けようぜぇ!」

「「「いいねー!」」」


 だが泥酔しなくても、誰もが楽しそうに宴を満喫していた。

 今宵はアルコールが少なくても、勝利の美酒を味わえるのだ。



「…………元気だな、みんな」


 そんな宴の様子を、俺は少し離れたところから見ていた。

 酒は口にしているが、それほど酔っていない。


 好きな日本酒を飲みながら、宴会の様子を更に眺めていく。


「ん? あれはマリアと……女衆か」


 マリアは楽しそうに、女衆と一緒に宴会に参加していた。

 数日前には考えられない光景だ。


「相手も認めてくれた……という訳か」


 ホームセンターの激戦中、マリアは命懸けて子どもたちを守った。

 その活躍は翌日には、女衆全員に知られた。


 だからマリアと女衆との距離が、ああして一気に狭まったのだ。


「アイツも勇気を出して、飛び込んでいったわけか」


 一方でマリアも、自分から女衆の輪の中に入っていくようになった。

 俺のアドバイスを聞いて、他人と関わるようになったのだ。


 そんな時、マリアが小さく笑っていた。


「……悪くない笑顔だな」


 以前のマリアは、作られた妖艶な笑みが多かった。


 だが今の彼女は心から笑っている。

 娼婦マリアではなく、一人の女性として、みんなに心を開こうとしていたのだ。


「あの分だと、もう大丈夫そうだな」


 マリアは『まだ娼婦は続けていくわ』と、昨日、俺に言ってきた。


 過酷なホームセンターでの暮らしは、まだ続いていく。

 そのためストレスが多い組織と性欲は、絶対に切り離せない。


『……私にしかできない、責務だからね、これも』


 そう語ってきた彼女は微笑んでいた。

 マリアは自分の意思で、癒す道を選らんだ。


 だから、もう彼女は大丈夫。

 これからは前向きに、独身男性陣の身体と心を癒していってくれるだろう。


 そんなことを考えながら、俺は他に視線を向けていく。


「……ん。あれは真美」


 一真美も楽しそうに宴会に参加していた。

 下戸である彼女は酒を飲まず、子どもたちと楽しそうにしている。


「そういえばアイツ……やけに子どもたちに人気が出てきたな」


 ここに来て分かったことだが、真美は子どもに異様に人気がある。


 気さくで子供っぽいところが「真美お姉ちゃん!」として人気があったのだ。


 あと、菓子を子どもに配り歩ていていたことも、人気の要因かもしれない。


「……だが、アイツはどうして、俺から調達した菓子を、わざわざ配っていたんだ?」


 菓子の対価で、彼女は俺と性的な行為をする必要があった。

 プライドが高い真美は身体を張って手に入れた菓子を、サンタクロースにようにただで配っていたのだ。


 もしかしたら菓子の入手が本来の目的ではなく、他に目的があったのだろうか?


 いや……プライドが高い真美に限って、そんなことはないな。


 そんな事を考えながら、更に宴会を眺めていく。


「……ん?」


 そんな時、一人の住民が近づいてくることに気がつく。


「あれは……」


 こうして宴は佳境へ突入していくのであった。

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