第44話:朝食会場


次の日の朝になる。

 寝袋を片付けて建物の周囲の確認をしてから、俺は三階の朝食会場に向かう。


「おはようございます、沖田さま。朝食の準備ができております。どうぞ」


 すでに朝食は準備されていた。

 メイド姿の涼子に案内されて、無駄に大きなテーブルに通される。


「ふむ。起きたか、同志よ? さて、それでは一緒に朝食に舌鼓を打とうではないか」


 美鈴は既に席についていた。


「お待たせしました、沖田さま」


 目の前にワンプレートの朝食が出される。

 このご時世だから豪勢な朝食とはいかないが、かなり本格的なモーニングセットだ。


「ん? 詩織もいたのか」


 涼子の後ろに、同じくメイド服の詩織が立っていた。

 見習いということで仕事を勉強しているのだろう。


「……はい。おはようございます、沖田さん」


 詩織は恥ずかしそうに頭を下げてくる。

 だが可愛くエロスなメイド服と相まって、なんともアンバランスな光景だ。


「わ、笑わないでください。私だって一生懸命なんですから……」


「もちろん笑いなどしない。なぜならメイドの仕事は、思っている以上に大変だからな。しっかり教えてもらえ」


 世間知らず女子高生な詩織にとって、今回はキツイ仕事になるだろう。

 だから俺も甘やかさずに対応するつもりだ。


 そんな話をしながら、俺も朝食に口をつけていく。


「うむ。相変わらず美味いな」


 スーパーメイド涼子は料理の腕もプロ級。質素な食材を丁寧に調理していた。


 久しぶりに平和な時の食事の味を堪能していく。


 そんな時、一緒に食事をしている美鈴が口を開く。


「なあ、同志よ。また子鬼ゴブリンくんを捕獲してきれないか?」


「別にいいが、昨日の奴はどうした?」


「残念ながら、彼は天に召されてしまった。いや、なに。実は昨日は私も興奮しすぎてな。つい彼の内臓を生きたまま観察しようとしたのが、失敗だったな。だが彼の臓物はピンク色で、本当に綺麗だったぞ」


 少女のように目を輝かせながら、美鈴は昨日の実験のことを教えてくる。


 だが臓物の解体の話をしながら、上手そうにベーコンを食している。相変わらずたいした性格の女だ。


「…………」


 ふと横を見ると、待機している詩織が唖然としている。


 その反応も無理はない。

 マッドサイエンティスト美鈴は一般人から見たら、明らかに狂人なのだ。


「そういえば彼らの肉は、食べられるのだろうか? どう思う、同志?」


「さぁな。食えたとしても、肉食だから美味そうには思えないが」


 本当は子鬼ゴブリン肉が、収納化した《モモ肉》が美味なことを俺は知っている。

 だが詩織がいることもあり、あえて知らないふりをする。


「やはり、そうか。美食である私も、アレは試す気にもなれんな」


 美鈴はマッドサイエンティストだが、食事に関してはうるさい。

 決まった物しか食べない偏食であり、マズそうな物は絶対に口にしないのだ。


 もしもこの女が偏食でなければ性格的に、まずは子鬼ゴブリンが食えるか、どうか試していただろう。


「サンプルの捕獲の件は了解した。その代わりに約束とおり、“石”の調査も最優先で頼むぞ」


「ああ、もちろんだよ。現在も調査機械にかけている最中だ。数日中には、何かしらの結果が出るから、楽しみにしていたまえ!」


 ちょっとした大学並の分析器も、降魔医院には完備している。だから魔石のある程度の調査も可能なのだ。


 ちなみに分析機械が豊富な理由は、“ゾンビパンデミック”が起きた時用らしい。

 妄想のゾンビのワクチンの研究と精製をするため、降魔家は代々何億も金をかける家なのだ。


 はっきりと言って金持ちの道楽だと、学生時代の俺も高を括っていた。

 だが今回はこうして世界崩壊に対応しているから、やはり天才の先見の目は凄かったのだろう。


 そんな話をしている内に、朝食の時間も終了。


「それでは行ってくる」


 朝飯と打ち合わせも終わったとろで、俺は席を立つ。

 子鬼ゴブリンの捕獲と周囲の調査をしていくためだ。


 ◇


 朝食から数時間が経つ。


 その人の正午前に、俺は降魔医院に帰還。もちろん生きた子鬼ゴブリンも捕獲すみだ。


「うぉおおおお⁉ 元気な子鬼ゴブリンくんが二匹も⁉ 感謝するぞ、我が同志よ!」


 今度は二匹。

 生きたまま捕獲した検体に、美鈴は相変わらず興奮。

 目を輝かせて、口からはヨダレがこぼれおちている。


『『――――っ⁉ ゴ、ゴブブ⁉』』


 やはり本能的に恐怖を感じたのだろう。二体の子鬼ゴブリンは震えて怯えていた。


 少しだけ同情するが、これも弱肉強食の世界。運がなかったと思え。


「二匹もいるなら、色々楽しめるなぁ⁉ それは検証を始めようではないかぁああ!」


 奇妙な形状の器具を手にして、美鈴は子鬼ゴブリンに近づいていく。

 おそらく生きたまま色んな実験をするのだろう。


「さて。いくか」


 そんな彼女を見ながら、俺は解剖部屋を後にする。

 助手には白衣のピョードルも付いているので、安全性も大丈夫だろう。


 だから俺は自分の用事に移ることにした。

 昼食を軽くとって、荷物の準備をしていく。


「午後は……防御力重視でいくか」


 これから向かう先は市内でも、少しだけ危険な場所。

 そのため強化アウターや頭の防御も固めていくことにした。


「さて、どうなっているだろうな。あの店は……鹿田銃砲店は」


 こうして市内で唯一猟銃を扱う店に、俺は調査に向かうのであった。

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