第74話:形勢逆転

 絶体絶命の窮地に駆け付けてくれたのは、高木社長が率いる強襲部隊だった。


『……約束通り、 助けにきてやったぜ、レンジ!』


 大型ダンプカーに乗る男、高木社長の顔が見えてきた。

 相変わらずパンチパーマの強面だが、今は誰よりも頼もしく見える。


「高木……」


 まさかの窮地に駆け付けてくれた英傑に、俺は思わず胸が熱くなる。


 だが今は感動をしている場合ではない。

 心を落ち着かせ、小型無線機に声をかける。


「よく来てくれた。だが状況はあまり良くない。お前たちは浄水センター前の子鬼ゴブリンを頼む」


『……おい、久しぶりに話すのに、相変わらず淡々としてんなぁ、レンジ⁉ だが分かったぜ! ゲート前は俺たちに任せろ! おい、やるぞ、テメェら!』


 無線機の向こう側で、高木社長が号令を下す。


 直後、ホームセンタートラック部隊は陣形を変える。


 ダンプカーと大型トラックを左右に展開。

 後方の二台の車両を前に出していく。


「あれは……工事用の特殊車両か」


 前衛に出てきたのは、二台の“ホイールローダー”。

 タイヤ式の大型ブルドーザーだ。


 ……ブルン! ブルルン!


 ホイールローダーはエンジン音を上げながら、混乱する子鬼ゴブリン軍の中に突撃していく。


 ――――ドン! バギッ! ドシン!


 タイヤ式のホイールローダーは舗装道路なら、80キロ以上の速度を出せる。

 集団で固まっていた子鬼ゴブリンを、頑丈な油圧ショベルで吹き飛ばしていく。


 ……ブルン! ブルルン!


 そのまま子鬼ゴブリン軍の中を、ホイールローダーは一直線で突き抜けていく。

 かなり難易度の高い運転だが、職人たちは見事な運転技術で成し遂げていた。


『よし、俺たちも突撃するぞ!』


 二台のホイールローダーが作った道を、ダンプカーとトラック部隊が突撃していく。


 ――――キッ、キキ――――!


 トラック部隊は子鬼ゴブリン軍の中心で急停止。

 次なる攻撃に移行していく。


 ……ウィイイン


 大型トラックの荷台が、電動で左右に開いていく。


 ……ざわ……ざわ……ざわ……


 荷台の中にいたのは、数十人の“武装集団”。


 俺もよく知る懐かしい男たち、武装したホームセンター男衆だ。


『よし、テメェら、皆殺しにしろぉ!』


 高木社長の号令が、開戦の引き金になる。


「「「うぉおおおおお!」」」


 荷台の男衆は攻撃を開始。

 投石機やパイプ弓、長槍による中距離の全方位攻撃だ。


『『『ゴゥウウウウウ⁉』』』


 まさかの敵の援軍の出現。

 苛烈な攻撃を受けて、子鬼ゴブリン軍は大混乱に陥る。


『『『ゴゥウウウウウ⁉』』』


 連中も必死で反撃しようとするが、相手は高台の荷台やダンプカーの上にいる。

 そのため子鬼ゴブリン軍は一方的に蹂躙されていく。


『よし、次は橋の上の奴を、排除しろ!』


 高木社長の指示が飛ぶ。


 ……ブルン! ブルルン!


 二台のホイールローダーが爆音と共に、再び動き出す。


 ――――ドン! バギッ! ドシン!


 橋の上で固まっていた子鬼ゴブリンを、頑丈な油圧ショベルで吹き飛ばしていく。


 ――――ドン! バギッ! ドシン!


 大型重機の馬力は尋常ではない。

 除雪のように軽々と、子鬼ゴブリン軍を排除していく。


 そんなホームセンター組の援護攻撃に、守備隊も呼応していた。


「みなさん、こちらかも攻撃です!」


 唐津隊長の号令が飛ぶ。

 今、討って出たら、絶好の挟撃体勢になるのだ。


「「「うぉおおおおお!」」」


 守備隊は雄叫びを上げて突撃していく。

 強力な援軍の活躍に、彼らのボルテージは最高潮に達していたのだ。


『『『ゴゥウウウウウ⁉』』』


 挟撃された子鬼ゴブリン軍は、もはや逃げることもできない。

 断末魔を上げて次々と倒れていく。


 ◇


 そんな一方的な殺戮光景を、上空から見ていたのは敵の指揮官ガラハッド。


『――――っ⁉ ば、馬鹿な……これは、どういうことだ⁉』


 自分の配下が一方的に虐殺されていく。

 信じられない悪夢の光景に唖然していた。


 ――――そして“その隙”を俺は見逃さない。


「収納……【英知乃投槍アダムス・スロアー】、セット」


 取り出した鋼鉄の槍で、瞬時に投擲体勢に入る。


 右手に金属製の投槍器スピアスロアー持ち、左手で長槍をセッティング。


 両足を開き半身にして、やり投げ選手のように構えをとる。


『――――っひ⁉ それは⁉』


 ガーバイルはようやく俺に気がつく。


『くっ……下等種がぁああ!』


 上空で回避行動をとりながら、右手を向けてくる。

 指の先には巨大な“火炎弾”が出現していた。


『焼き殺してやる、下等種ぅう!』


 先ほどポンプ車を破壊した攻撃なのだろう。

 おそらく俺の強化防御力でも防げない危険な火炎弾だ。


「ふう……」


 だが俺は攻撃準備を止めない。

 深呼吸して全身の気を高めていく。

 強化した身体能力、をバネのように力を充填していく。


『はっはっは! 焼け死ねぇ!』


 ガラハッドは火炎弾を放とうとするが、俺は回避しない。


 何故なら俺には、“仲間”が見えていたからだ。


「……沖田さん! はっ!」


 詩織が気合の声と共に、強化矢を放つ。


 ――――シュッ!


 ――――グッ、バシャ!


 見事に的に、ガラハッドの右腕に命中。


『――――っ⁉ うわぁあ⁉ なんだ、これは⁉』


 致命傷が与えられていないが、ガラハッドの回避行動はピタりと止まる。


「詩織、よくかった……はぁああああ―!」


 その隙を狙い、俺はフルパワーで槍を投擲する。

 狙うはガーバイルの胸部、心臓がある部分だ。


 ――――――――ビュン!


 風を斬り裂き、強化槍が飛翔していく。


 まるで電磁カタパルトから発射された弾丸だ。


『――――ひっ、こ、こんな槍など、このガーバイル様にはぁああ!』


 だがガーバイルも凄まじい反射神経を反応。

 両腕で防御態勢をとる。


 ――――ズッ――――シャァアア!


 だが防御は無意味だった。


 投擲槍は両腕を一瞬で貫通。

 そのままガーバイルの胸元も、一気に貫通していく。


『――――ッ⁉ そ、そんな馬鹿な……こ、このガーバイル様が……下等種ごときに……』


 胸を貫かれて、ガーバイルはヒラヒラと落ちていく。


 河川敷の雑木林のように墜落していった。


 ◇


 そんな光景を見ていたのは仲間のレギオス。


『――――っ⁉ ゴブブブブゥウ⁉』


 リョウマと対峙していたレギオスが動きを止める。

 強者である仲間が一撃で葬られたことに、混乱していたのだ。


 ――――そして、その隙も俺は見逃さない。


 投槍器スピアスロアーを投げ捨て、レギオスに向かって駆けていく。


「収納……【強化単発弾マテリアル・スラッグ】、セット、」


 駆けながら取り出したのは、一丁の散弾銃。


 鹿田店主の愛用していた散弾猟銃、俺が強化した【強化単発弾マテリアル・スラッグ】だ。


「はっ!」


 隙を見せていたレギオスの股下に、俺はスライディングで滑り込んでいく。


『――――っ⁉ ゴブブブブゥウ⁉』


 俺のまさかの急接近に、レギオスは攻撃をしかけようとする。


 だが死角である股下には、自慢の尻尾攻撃は届かない。


「いくら頑丈なお前でも、ここなら!」


 稼働域である股下は、硬皮が薄くなっていた。

 俺は狙いをつけて、引き金を引く。


 ――――バァ――――ァン!!


 強化散弾銃から、巨大な弾丸が発射されていく。


「うっ⁉」


 身体能力を強化した俺でも、声を上げてしまう異常な反動だ。


 ――――ズッ――――バン!


 次の瞬間、レギオスの身体に“一本の穴”が開く。


強化単発弾マテリアル・スラッグ】が硬皮と内蔵、骨、脳を貫通していった道だ。


『……ゴブブブブゥウ…………ブ……』


 もはやレギオスは声を上げることもできない。

 小さな咆哮と共に、こと切れる。


 ――――バッ、タ……ン!


 巨大な身体が倒れこみ、大きな衝撃音が鳴り響く。


 唖然としていたリョウマが、こちらに駆け寄ってくる。


「おい、沖田⁉ 大丈夫か⁉」


「もちろんだ」


 倒した獲物の下敷きになるヘマなどしない。

 立ち上がり、レギオスの死体に目を向ける。完全に死んでいることを、確認していく。


「お、お前、今の攻撃は、いったい何だ⁉ あんな強力な武器があるなら、どうして、もっと早く使わなったんだ⁉」


「連発できない武器だから、隙を伺っていただけだ。それよりも、こいつの首を落としておけ」


 特殊個体は普通の子鬼ゴブリンとは違う。

 心臓と内蔵を潰しても、首を落とさないと安心はできないのだ。


「く、首を? ああ、分かった!」


 今のレギオスの状態なら、《断罪の大戦斧バトルアックス》でも首を落とせるだろう。

 まだ元気なリョウマに止めを任せておく。


「それが終わったら、お前はゲート前の援軍にいけ」


「ああ、任せておけ!」


 ゲート前の戦いは最終局面に入っていた。

 ホームセンター強襲部隊と守備隊の挟撃で、子鬼ゴブリン軍はほぼ全滅状態。


 残党狩りがリョウマの主な仕事になるだろう。


「ん? 沖田、どこにいく?」


「“もう一匹”の首を落としてくる」


 ガーバイルの心臓は破壊していたが、まだ死体は確認していない。

 落下ポイントに確認しにいくのだ。


「そうか……気を付けろよ。お前には色々と聞きたいこと……いや、言いたいことがあるからな」


 そう心配されながら俺は移動していく。


 だが落下地点にはガーバイルの死体はなかった。

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