第26話危険な違和感

 食料倉庫の襲撃作戦は順調に進んでいた。


「――――っ、ひっい⁉ 助けてぇ!」


 だが裏口で二匹の子鬼ゴブリンは、鉄男に襲いかかる


「ふう……やるしかないな」


 俺は愛用の強化スリングショットを構える。

 躊躇なく金属製の弾丸を発射。


 ――――シュッ!


 ――――ジュ、パン!


 手前にいた子鬼ゴブリンの頭部が吹き飛ぶ。

 声もだせず即死だ。


 ――――シュッ!


 続けて二発目も発射。


 ――――ジュ、パン!


 二匹目の頭部も吹き飛ばし、無事に仕留める。


 奥からは増援がくる気配はない。

 これならフォークリフトでの積み込み作業も、しばらくは大丈夫だろう。


「えっ? へっ?」


 そんな中、腰を抜かしていた鉄男は、呆気にとられていた。

 俺がどうやって倒したさえ理解できないのだ。


「さすが先輩、引きつけてくれたお蔭で、俺でも楽に倒せた」


「えっ? へ? ああ、そうなのよね! 俺さまの演技の作戦だったわけよ、今のはさ!」


 持ち上げたことで鉄男は元気を取り戻す。

 ビビりながら子鬼ゴブリンの死体から離れていく。


 そんな中でも作業は続いている。


「……おーし、次はこっちの食料だ!」

「……こっちのトラックは、もうすぐ満タンだぞ!」

「……よし、いけるぞ、俺たちは!」


 奪取作戦は順調に進んでいる。

 予定以上の物資を、トラックに詰み込んでいるのだ。

 作業員はかなり明るい表情になっている。


(このままでいけ、作戦は大成功で終わりそうだな。なんだ、この違和感は?)


 そんな中、俺だけは気を張っていた。


 何故なら“何か”がおかしいのだ。


 できれば早く違和感の原因を突き止めたい。


「専務、ちょっと軽く見てくる。作業が終わったら、俺に構わず離脱してくれ」


 だから俺は単独行動を決意する。

 仲間に伝言をして、倉庫の奥に進んでいく。


 目的は違和感の正体を探るためだ。


(…………)


 俺は無言で倉庫内を進んでいく。

 強化スリングショットを手に持ち、フードを被り頭部も完全に防御態勢。


 いつ大軍に囲まれていいように、完全武装で暗い倉庫中を進んでいく。


『ガルル⁉』


 ――――シュッ!


 ――――ジュ、パン!


 道中で遭遇した子鬼ゴブリンは、先制攻撃で仕留めていく。


 俺は昔から夜目が効く方。

 今は【付与魔術】で更に身体能力を強化してある。


 暗闇でも難なく進んでいくことが可能なのだ。


 ――――シュッ!


 ――――ジュ、パン!


 ――――シュッ!


 ――――ジュ、パン!


 暗闇の中、遭遇した子鬼ゴブリンを連続で駆除。


 十匹近い獲物を駆除。

 だが違和感はまだ見つからない。


(光? ……正面か)


 気がつくと正面入り口に到達していた。


 注意深く倉庫前を確認していく。


(戦闘が終わっている、だと?)


 だが正面入り口はすでに終わっていた。

 人間側の圧勝。

 三十体ほどの子鬼ゴブリンの死体が転がっていた。


 一方で人間はほとんど無傷状態。

 作戦通り車両の上から、一方的に攻撃をしかけて圧勝したのだ。


「「「えい、えい、うぉおおお!」」」


 相手を全滅させ強襲部隊は勝どきを上げていた。

 誰もが自分たちの勝利を疑わず、勝利の興奮に酔いしれている。


(もしかしたら……マズイな、これは)


 だが俺は一人冷静。

 周囲の安全を確認してから、正面入り口から外に出ていく。


「ん? おーい! レンジじゃねぇか⁉」


 パンチパーマの大男、高木社長がトラックの荷台から叫んでくる。


「いった、どうやって、そこから出てこられたんだ⁉」


 社長が驚くのも無理ない。

 倉庫裏にいたはずの俺が、子鬼ゴブリンの巣窟を突っ切ってきたと勘違いしているのだ。


 やはり、そうか。

 俺は違和感の正体について、社長に確認していく。


「社長、子鬼ゴブリンの死体は、これだけか? 正面口から逃げていった、他の奴はいないのか?」


「逃げていった奴? いないぞ。中に逃げていったのは数匹いたが……」


 やはりそうか。

 これで違和感の正体が確定隠した。


「社長。あまり良くない知らせがある」


 違和感の正体は、俺たちにとって良くない事実の可能性が高い。

 急いでみんなに知らせないと。


「良くない知らせだと? どういうことだ、レンジ?」


「倉庫にいた子鬼ゴブリンが少なすぎる……ということだ」


 昨日の偵察の時、中には二百匹近くはいた。

 だがここの死体を全部合わせても、約40匹しかない。


 つまり160匹近い子鬼ゴブリンの、今日になって消えたいたのだ。


「……どこかに行ったのか?」


「連中は目的がない限り外にでない」


「まさか……」


「ああ。残りの百匹以上は“狩り”に出ている」


 習性的に子鬼ゴブリンは狩りの時しか、巣の外に出ない。


 今のところ連中が狩るのは“人間”だけ。


 そして連中の好物が、ここから比較的近い建物に籠っているのだ。


「――――っ⁉ ま、まさか、そいつらの行く先は⁉」


 ようやく俺の言いたいことに、社長も気がつく。


 ――――そんな時、ダンプカー運転席の無線機が鳴る。


『……しゃ、社長⁉ 聞こえているか……大変だ⁉ 子鬼ゴブリンが攻めて来たん……見たこともない数が、ホームセンターに……うぁああ……』


 発信者はホームセンターの留守番組から。かなり危険な状況なのだろう。


『おい、どうした⁉ 応答しろ⁉』


 ……ザー、ザー――――


 すぐに連絡しても相手からは返事がない。

 無線に出られない状況。

 かなり切羽詰まった状態にホームセンターはなっているのだ。


 その悲報は圧倒的に強襲部隊に知れ渡る。


“ホームセンターが子鬼ゴブリンの大軍に襲われている”


「「「そ、そんな……⁉」」」


 衝撃的な内容に、誰もが言葉を失ってしまう。


 何故ならほとんどの男衆は、戦闘力がある者は、今回の強襲作戦に参加している。

 残っているは女子ども衆、怪我人と老人しかいないのだ。


「ま、まずくねえぇか……これ?」

「ああ……最悪な状況だ……」


 大通りは放置自動車が多すぎて、ホームセンターには迂回しないと帰還できない。


「早く戻らないと⁉」

「だが、どんなに急いでも、間に合わねぇぞ……」


 そのため、どんなに急いでも間に合わない可能性が高いのだ。

 最短時間で戻れたとしても、すでにバリケードは破られているだろう。


「「「そ、そんな……」」」


 誰もが動けずにいた。

 大事な家族や仲間が、子鬼ゴブリンに皆殺しにされる悲劇。自分たちが防げないと確信してしまったのだ。


(ちっ……仕方がない)


 だから俺は声を張り上げることにした。


「みんな、冷静になれ! 今から急げば、必ず間に合う!」


 絶望で唖然として男衆に、俺は声をかけていく。


「ほ、本当に間に合うのか、俺たちは⁉」

「で、でも、どうやって⁉」


「まずは小回りの利く車に、戦い慣れた者を最優先で搭乗させろ。先行させて最速で攻撃をしかける! トラックは捨てて、ダンプカーにも人員を乗せろ!」


 どうすればいいか分からない男衆に、俺は簡潔に説明していく。

 最適な移動方法と戦術変更を伝えてやる。


「次は間違いなく乱戦になる。さっきと戦いと頭を切り替えろ。勝利に浮かれるな! お前らの大事な家族と女を、絶対に守りたいだろ? 急げ……戦士たちよ!」


「「「お……おおぉおお!」」」


 俺の激励の言葉に、男衆は雄叫びを上げ動き出す。


 小回りの利くワンボックスに、次々と乗り込んでいく。

 大きな武器は捨てていき、最速で移動できるようにしていた。


(よし、これで何とかなるな。だが……)


 ワンボックス部隊も迂回路的に、間に合わない可能性が高い。


 その前に誰かが先回りして、守備隊を助ける必要があるのだ。


「社長。そのバイクを借りていくぞ」


 強襲部隊の中に、モトクロスタイプのバイクを乗ってきた者がいた。


 これなら最短ルートを最速走行できる可能性がある。


 かなり危険なルートだが、身体能力が向上させている俺なら、おそらく耐えられるはずだ。


「レンジ……頼んだぞ。俺たちもすぐに追いつく」


「ああ。先に行っている」


 先ほどまで勝利の美酒に酔いしれていた、強襲部隊の雰囲気は一変していた。


 誰もが必死の形相で、強行帰還の準備に取りかかっていた。


(ちっ……真美とマリア……俺たちが戻るまで、無茶はするなよ……)


 こうして絶体絶命の窮地を打開すべく、俺は全速力でモトクロスバイクを駆けていくのであった。

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