第27話ホームセンターの危機

 食料倉庫の強襲には成功した。


 だが入れ違いで子鬼ゴブリンの本隊に、ホームセンターを襲撃されしまった。


 高木社長率いる男衆の帰還には時間がかかる。


「ちっ……間に合うか⁉」


 俺は単身バイクで先行。

 モトクロスバイクで最短ルートと突っ切っていく。


「モトクロスか……久しぶりだが、身体が覚えているな」


 年の離れた兄がモトクロスバイクの愛好家。

 俺も学生時代から田舎の裏山で一緒に遊んでいた。


 ……ブルン! ……グワァン!


 だから荒地の運転もある程度は可能。


 最短距離の垣根や段差を、バイクで飛び越えていく。


 普通なら身体がもたない、かなり強引な運転。

 だが【付与魔術】で身体能力を強化したインナーを、今の俺は着用している。

 だから曲芸のような強引な運転も可能なのだ。


「……あれは……よし、見えてきたぞ」


 ホームセンターの大きな看板が見えてきた。

 高木社長の本隊よりも何倍も短縮して、俺は帰還できたのだ。


 さらに前進しがら状況も確認していく。


「あの緑色の影が……全部、子鬼ゴブリンなのか?」


 ホームセンター入り口前は緑の武装集団で染まっていた。


 数は少なくても二百匹はいる。

 想定よりも多い数だ。


「バリケードは? よし。ギリギリ間にあったな」


 正面入り口はまだ破られていない。

 女衆が中心になって長槍や大盾で、バリケードの中から応戦していた。


「だが時間の問題だな、これは」


 ホームセンターの鉄製でバリケードはかなり堅牢なもの。

 だが今回は相手の数は多く、守備隊の数が少なすぎる。


 まだ今は死者は出ていない状況。

 だが、あと数分以内に子鬼ゴブリンにバリケードを突破してしまうだろう。


「後ろから子鬼ゴブリンの数を、遠距離攻撃で減らしていくか? いや、今まず合流は先決だな」


 ……ブルン! ……グワァン!


 俺はエンジンを更に高速回転。

 バイクを更に加速させて、子鬼ゴブリンの背後に突進していく。


「あの板が、ちょうどいいな」


 駐車場に転がっていた廃材に、一直線で突っ込んでいく。


 ……ブルン! ……ふわっ……キ、キキー!


 廃材をジャンプ台代わりにした。

 数十メートルの大ジャンプに成功。


 ――――キ、キ――――キ!


 バリケードの内側に急ブレーキ着地する。


「「「――――っ⁉」」」


 守備をしていた女衆は、突然のことに驚愕する。

 何しろバイクが空を飛んできたのだ。

 その反応も仕方がない。


「あ、あんたは⁉ 新入りのレンジかい⁉」


 女衆のリーダー、社長夫人が俺の顔に気がつく。

 彼女は“女将”の異名をもつ、リーダーシップを取れる女傑だ。


「どうして、ここに⁉ 旦那たちは無事なのかい⁉」


 俺だけ単身戻ってきたことが、不安でしょうがないのだろう。


「落ち着け。あっちは全員無事だ。あと十分間で戻ってくる」


「ほ、本当かい⁉」

「ああ、よかった……」


 まず伝えるのは男衆の無事について。

 続いて援軍があること伝えて、女衆の安堵させてやる。


「お前らの男衆は最強に頼もしい。だから、ここをあと10分だけ死守しろ。まだ死力を尽くせるか?」


 次にかけたのは鼓舞の言葉。守備隊の士気を高めるためだ。


「ああ、もちろんさ! みんな、聞いた? あと10分、ここを守りきるよ!」


「「「おぅうう!」」」


 俺がもたらした朗報によって、守備隊の士気が一気に上がる。


 こうした籠城戦において、一番の武器は援軍の存在があること。

 強力な男衆が、もうすぐ援軍として駆けつけてくれる。

 全員に最後の力が湧きあがってきたのだ。


「よし、これなら少しは持つな。俺の方でも少し減らしておくか」


 守備隊の士気は上がったが、戦力差が大きすぎる。

 俺は迫りくる子鬼ゴブリンの数を減らすことにした。


「だが、この数は厄介だな」


 相手の数は二百以上。

 スリングショットや剣鉈では対応が追いつかないのだ。


「それなら、コレを使うか」


 俺はサイドポーチに手を入れる。【収納袋】を意識して目的なの品を取り出す。


 取り出したのは二本の火炎瓶。念のために収納しておいた私物だ。


「これを使ってみるか」


 サバイバルマッチで火をつけて、狙いをつける。


「あまり近いと、こっちにも被害が出る。狙うは相手を分断する場所……あそこだ!」


 狙いをすませて火炎瓶を二連続で投擲。


 ――――ガシャン! ボワぁあ――――!


 子鬼ゴブリンに着弾して火炎瓶が発火。

 地面に燃料が飛び散って、一面が火の海になっていく。


「よし、狙いとおりだな」


 相手は数が多すぎるため、それほど多くは倒せていない。

 だが子鬼ゴブリンの分断には成功した。


 火炎瓶の効果はけっこう長い。

 これで女衆の負担がかなり減ったはずだ。


「念のために前列の数を、もう少し減らしておくか」


 俺は収納から新しい武器を取り出す。


 ……ジャラリ……


 収納から取り出したのは数メートルの鉄の鎖。

 両端に拳大の鉄の塊がついた武器、分銅鎖ふんどうくさりだ。


「さて、実戦で使うのは初めてだが、狩り用の“ボーラ”と使い勝手は同じだから、何とかなるはずだ」


“ボーラ”とは頑丈なロープの先端に、球状のおもりを取り付けたアイテム。

 遠心力で投擲して獲物の足を絡ませ、また胴体や頭部にダメージを与えて狩る狩猟道具だ。


 幼い時から俺はボーラも狩りに使っていた。

 だから同じ系統の分銅鎖を使うことも可能なのだ。


「さて、それではいくぞ!」


 分銅鎖を構えながら、子鬼ゴブリンの中に飛びこむ。


「いくぞ!」


 両手を使い“分銅鉄鎖アイアン・バイケン”を高速回転させていく。


 ……ビュン! ビュン! ビュン!


 空気を斬り裂く音が、周囲に鳴り響く。


 これぞ身体能力を強化させた俺の筋力による、鉄鎖の振り回し攻撃だ。


 ――――グチャ! ブチャリ! 


 直後、周囲の子鬼ゴブリンが砕け散っていく。

 遠心力を利用した鉄塊攻撃を受けて、頭部や胴体が吹き飛んでいたのだ。


「分銅鎖の威力、威力は半端ではないな」


 普通の棍棒を振り回すより、分銅鎖の方が破壊力は遥かに上。

 遠心力を利用しているため普通の人間でも、分銅鎖でアルミ缶ぐらいはグチャグチャに破壊できるのだ。


「しかもこれは付与で強化した分銅鎖、“分銅鉄鎖アイアン・バイケン”だからな」


 この攻撃は《遠心力×強化分銅鎖×強化身体能力》のトリプルコンボ》の威力がある。

 竜巻のように振り回す鉄回が、拳大マグナム弾以上の破壊力を有しているのだ。


 ちなみに名前は伝記に登場する鎖鎌分銅の使い手、宍戸梅軒ししど ばいけんから取ったものだ。


「さて、慣れてきたし、どんどんいくぞ!」


 俺は“分銅鉄鎖アイアン・バイケン”の回転のギアを上げていく。


 ――――グチャ! ブチャリ! パン! グチャ! ブチャリ! パン! 


 周囲の子鬼ゴブリンは次々と吹き飛ばされている。

 俺の周囲はまるでハリケーンのように、赤緑色の血肉が飛び散っていく。


「ふう……こんなものか?」


 気がつくと周囲に二十匹近い子鬼ゴブリンの死体があった。

 頭部や腹部を吹き飛ばされて、息をしている者はいない。


「さて、一度、バリケード内に戻るか」


 バリケード前の厄介そうな集団は倒せた。


 火炎の向こう側にはまだ二百以上も残っているが、これでしばらく時間は稼げるだろう。

 俺は一度、女将たちの元に戻る。


「あ、あんた、凄いね⁉」

「一瞬で、あんなに倒して⁉」

「アンタ実は強かったんだね⁉」


 女将たちは唖然としていた。

 ここに来てから俺は目立たないように過ごしてきたから、まさかの実力に驚いているのだ。


「油断はするな。あの炎の向こう側に、敵の本隊が残っている。今のうちに整えておけ」


「ああ。分かったよ! おい、あんた達、急ぎな!」

「「「ええ!」」」


 リーダー女将の指示に従い、女衆は武器と防具を補充していく。


 さすが荒くれの職人の妻たち。かなり肝が座って動きもテキパキしている。


(さて、ホームセンターの他の状況は?)


 相手を警戒しながら、他に危険な箇所がないか確認していく。


(ん? ここにいる女衆の数が……?)


 そんな時、ふと疑問が浮かんできた。

 留守番隊にいる者が、ほとんど正面に集結しているのだ。


「おい、女将。裏口に増援は行かせてなのか?」


 このホームセンターは正面の客用入り口。

 あと裏口の積み込み口、計二か所しかない。


「えっ、裏口だって? いや……――――あっ⁉」


 女将はハッとなる。

 混乱のあまり、裏口に人員を強化していなかったのだ。


 ――――その時だった。


「――――キャァ!」


 店内から悲鳴が響き渡る。

 甲高い声、子どもたちの声だ。


 もしかしたら裏口から敵が侵入したのかもしれない。


「――――っ⁉ そ、そんな⁉」

「まさか⁉」


 自分の愛する子どもたちに襲われた。女衆は顔が真っ青になる。


 だが目の前には二百以上子鬼ゴブリンの集団。

 どうすればいいか、誰もが混乱していた。


「子どものたちはどこにいる?」


「じ、事務所の中よ!」


「それなら俺がいく方が早い。お前たちはここを死守していろ!」


 だから俺は即座に指示を出す。適材適所で役割の分担だ。


「あ、ああ! 頼んだよ、レンジ!」


 女衆がこの場を放棄したら、店内は更に地獄になってしまう。

 女将は断腸の思いで、子どもたちのことを俺に託す。


「緊急事態だ……少し急ぐか」


 俺は店内に入って、身体能力をフル稼働。

 陳列棚を踏み台にして、店の奥にある事務所へと向かう。


「真美とマリアも正面にいなかったな。くそっ……間に合ってくれ」


 こうして崩壊寸前のホームセンター内を、俺は全力で駆け抜けていくのであった。

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