第25話強襲部隊、出撃
大作戦決行日の朝がやってくる。
今朝は誰もが日の出前から、作戦の最終準備をしていた。
そして時間は午前11時、強襲部隊の出撃の時間がやってくる。
◇
……ざわざわ……ざわざわ……
ホームセンター前の駐車場、強襲部隊が勢ぞろいしていた。
大型のダンプカーを中心に、数台のトラックと人員輸送用のワンボックス。
機動力があるバイクも数台いる。
そして槍と盾で武装した屈強な男たち。
女子ども衆はバリケードに守られたホームセンターから、彼を見守っている。
まるで戦国時代の戦前のような壮観な光景が、ホームセンター前に広がっていた。
(いよいよだな)
そんな中、俺も駐車場で待機中。
誰もが総大将である高木社長の号令を、今か今かと待っていた。
「……おい、野郎ども、準備はいいか⁉」
ダンプカーの上、高木社長が声を張り上げる。
出発前の最後の激が飛んでくる。
「これから向かう先には、やばい数の化け物……
俺が話している内に、ホームセンター組にも
「昨日から色んな準備もしてきた。だが危険な作戦なことは変わらなねぇ。もしかしたら死傷者もでるかもしれない」
……ざわざわ……ざわざわ……ざわざわ……
死傷者が出る可能性がある、と聞き駐車場がざわつく。
誰もが不安な顔になる。
「だがメリットは何倍もでけぇ! 成功したあかつきには、大量の食料が手に入る! 食い切れねぇくらいの白米や肉、魚の缶詰を、俺たちは手に入れられるんだぁ!」
……ざわざわ……ざわざわ……
大量の食料と聞いて、全員の目の色が変わる。
何しろ食料は誰も一番欲しい物資。
この世界では命を賭ける価値があるのだ。
「今日の作戦は絶対に成功させる! だから俺についてきてくれぇえ! ここに残して大事な者を、守る力を俺に貸してくれぇ!」
高木社長は枯れんばかりに叫ぶ。
自分の偽りなき想いを、仲間たち伝えていた。
「「「うぉおおおおお!」」」
それを受け、男衆も声を上げる。
興奮と高揚。
歓喜と熱狂。
色んな感情が混じった雄叫びが、駐車場に響き渡る。
まさに決戦への出陣前。
全員の士気が最高潮に高まったのだ。
「よし、それでは行くぜ、野郎ども!」
……グルル……ブルル……
社長の号令と共に、各車両のエンジンに火が灯る。
……ブゥン! ……ブゥン! ……ブゥン!
空吹かしにした廃棄音が、轟音となり身体に響いてくる。
いよいよ強襲部隊が出陣する時がきたのだ。
「たいした演説だったな、社長」
名演説を終えて降りてきた高木社長に、俺は称賛の言葉を送る。
この傑物のお蔭で部隊の士気が上がり、団結力は強固になっていたのだ。
「若い頃は消防団もやっていたから、“昔取った杵柄”というやつだ」
社長は少し恥ずかしそうに、白い歯を見せてくる。
少し緊張はしているが、高揚感で恐れはない顔。
本当に肝が座った男だ。
「そっちの方、トラック部隊は頼んだぞ、レンジ」
「善処はする。正面も頼んだぞ」
「ああ、任せておけ。思いっきり目立って引きつけておく」
今回の作戦は正面の陽動部隊と、裏口のトラック部隊の連携が肝になる。
どちらかがミスをしても作戦は失敗してしまうのだ。
俺は社長と別れ、トラック部隊の合流。
助手席に乗って出発の時を待つ。
そんな俺たち強襲部隊に、声をかけてくる者たちがいた。
「……みんな、死ぬんじゃないよ!」
「……絶対に生きて帰ってきてよぉ!」
「……パパ、頑張ってぇえ!」
留守の女子ども衆が、激励を言葉が飛ばしてきたのだ。
自分の夫や父親、深い仲の男たちを、彼女たちは複雑な感情で見送っている。
(ん? あれは……真美か)
そんな中に真美もいた。
俺の方に向けて『レンジ……生きて帰ってきてね!』と声援を送ってくる。
(ふっ。あいつも柄にないことをして)
ホームセンターでの生活で、だいぶ女衆に感化されたのだろう。
前の真美では考えられない女房面をしていた。
(さて、そろそろ出発しそうだな。ん? あれは……)
出発直前、屋上の人影に気がつく。
髪の長い女が一人で屋上にいたのだ。
(マリアか)
俺たちの出陣を、彼女も見送っていた。
手は振らず、声援も発していない。
「…………」
だが強く瞳で俺たちを見送ってくる。
――――ブゥ――――!
高木社長の運転するダンプカーが、甲高いクラクションを鳴らす。
いよいよ出撃の時が来たのだ。
――――ブゥン! ブルルン!
強襲部隊のエンジン音が、一層高く鳴り響く。
各車両が一斉に動き出す。
向かう先は食料倉庫、百匹以上の
(さて、いよいよか)
こうして一世一代の俺たちの大作戦が始動するのであった。
◇
強襲部隊は順調に進んでいた。
道中の
そして出発から数十分後。
強襲部隊はついに倉庫前に到着する。
「よし、クラクションを鳴らせぇ!」
総大将、高木社長の指示で、正面部隊が動き出す。
――――ブゥウウ! ―――――――ブゥウウ!
無数の大型車によるクラクション攻撃。
耳鳴りがするほどの激音が、倉庫前に響き渡る。
『ゴブブ⁉』
『ゴブゥウ⁉』
倉庫の中にいた見張りの
大部隊の敵襲があったことに気が付き、倉庫内に逃げていく。
中にいる百匹以上の仲間を、援軍として呼びにいったのだ。
「よし。訓練とおり、配置につけぇ!」
「「「うぉおお!」」」
ダンプカーを中心にして、数台のトラックをVの字型に展開。
俺が教えた“鶴翼の陣”の陣形をなる。
陣形を形成後、男衆は各車両から降車。
ダンプカーとトラックの上にハシゴで昇っていく。
「絶対に
「この高台を死守するんだぞ!」
「滑り落ちないように、無理はするな!」
正面部隊の目的は敵の殲滅ではない。
陽動で時間を稼ぎ、相手を引きつけることが目的なのだ。
その戦い方も俺が発案した、高所からの攻撃。
なるべく負傷者を出さないように、投石や投げ槍、投網で、一方的に攻撃していく戦術なのだ。
(なかなかの練度と、車両の改造だな)
溶接や大工たちの手によって、ダンプカーとトラックの上は城壁のように強化済み。
あれなら
しかも味方に大盾も装備している。
落下さえ気をつけて戦えば、正面部隊の被害は最小限になるはずだ。
(さて、俺も戻るとするか……)
そんな味方の雄姿を確認して、俺は去っていく。
裏口に近くに隠れているトラック部隊に、俺も合流するのだ。
◇
戻ってきた俺は、トラック部隊に状況を報告する。
「……という訳で、向こうは順調。タイミングを見計らって、こっちもいこう」
正面部隊の戦いは、すでに始まっていた。
遠くから雄叫びや金属が聞こえてくる。
火炎瓶攻撃の黒煙が上がっているのも見える。
正面では予想以上の激戦が、今繰り広げだれているのだ。
裏口から侵入するのも、今ならタイミング的には悪くない。
「――――っ、ひっ⁉ い、いよいよかよ……」
短め金髪な若者、鉄男が声をもらす。
彼は今回、トラック部隊に配置されていた。
だが実は小心者の彼は、恐怖で足が震えていたのだ。
「喧嘩無敗のところを見せてくれよ、先輩」
仕方がないので俺は声をかけてやる。
今回の作戦は一人でも怖気づいたら、失敗の可能性があるからだ。
「あ、あ、当たりめぇだろう⁉ 俺さまの強さを、みんなに見せてやるぜ!」
鉄男は鉄パイプをブンブン振ります。
相変わらず技もない攻撃だが、なんとか緊張は解けていた。
これなら最低限の仕事はできるだろう。
そんな状況を見て、トラック部隊の隊長、専務が声を上げる。
「よし。こっちもきましょう!」
裏口に
――――ブゥウウ! ―――――――ブゥウウ!
二台のトラックが、一気に裏口に接近。
そのままピタリと搬入口に接舷させる。
㎝単位の運転テクニック。
さすがは運送のプロドライバーの運転技術だ。
「それでは見張りは中の警戒をしてください! 他の人はフォークリフト降ろして、食料を詰み込んでいってください!」
専務が指揮するトラック部隊は、7人だけの少数精鋭。
作業を分担して、次の作業に移行していく。
俺と鉄男は見張り班だ。
「ひっ――――⁉ 中は……」
「先輩、いくぞ」
怯む鉄男を引き連れて、俺は倉庫の奥に進んでいく。
見張り班の仕事は、
もしも近づいてきたら排除しなくてはいけないのだ。
(今のところ、近くには裏にはいいないな? これならスピーディーに積み込めるな)
二台のフォークリフトは既に作業中。
パレットのまま食料をトラックに積み込んでいた。
こちらの操縦もお見事な腕前。
専務が中心になりスピーディーに効率よく積み込んでいた。
「――――っ、ひっい⁉」
そんな時、俺から少し離れていた鉄男が、情けない悲鳴を上げる。
その視線の先には二つの影、二匹の
「あれは……正面から逃げてきたヤツか?」
火炎瓶攻撃をまともに受けて、裏まで逃げてきたのだろう。
『ゴブブぅ⁉』
しかも運が悪いことに、相手は鉄男に気が付いていた。
このままだとあの若者は殺されてしまう。
「ふう……やるしかないな」
こうして俺にとっての戦闘も幕を開けるのであった。
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