第25話強襲部隊、出撃

大作戦決行日の朝がやってくる。


今朝は誰もが日の出前から、作戦の最終準備をしていた。


そして時間は午前11時、強襲部隊の出撃の時間がやってくる。



……ざわざわ……ざわざわ……


ホームセンター前の駐車場、強襲部隊が勢ぞろいしていた。


大型のダンプカーを中心に、数台のトラックと人員輸送用のワンボックス。

機動力があるバイクも数台いる。


そして槍と盾で武装した屈強な男たち。

女子ども衆はバリケードに守られたホームセンターから、彼を見守っている。


まるで戦国時代の戦前のような壮観な光景が、ホームセンター前に広がっていた。


(いよいよだな)


そんな中、俺も駐車場で待機中。


誰もが総大将である高木社長の号令を、今か今かと待っていた。


「……おい、野郎ども、準備はいいか⁉」


ダンプカーの上、高木社長が声を張り上げる。

出発前の最後の激が飛んでくる。


「これから向かう先には、やばい数の化け物……子鬼ゴブリンどもがいやがる」


俺が話している内に、ホームセンター組にも子鬼ゴブリンという呼称が定着していた。


「昨日から色んな準備もしてきた。だが危険な作戦なことは変わらなねぇ。もしかしたら死傷者もでるかもしれない」


……ざわざわ……ざわざわ……ざわざわ……


死傷者が出る可能性がある、と聞き駐車場がざわつく。

誰もが不安な顔になる。


「だがメリットは何倍もでけぇ! 成功したあかつきには、大量の食料が手に入る! 食い切れねぇくらいの白米や肉、魚の缶詰を、俺たちは手に入れられるんだぁ!」


……ざわざわ……ざわざわ……


大量の食料と聞いて、全員の目の色が変わる。


何しろ食料は誰も一番欲しい物資。

この世界では命を賭ける価値があるのだ。


「今日の作戦は絶対に成功させる! だから俺についてきてくれぇえ! ここに残して大事な者を、守る力を俺に貸してくれぇ!」


高木社長は枯れんばかりに叫ぶ。

自分の偽りなき想いを、仲間たち伝えていた。


「「「うぉおおおおお!」」」


それを受け、男衆も声を上げる。


興奮と高揚。

歓喜と熱狂。


色んな感情が混じった雄叫びが、駐車場に響き渡る。


まさに決戦への出陣前。

全員の士気が最高潮に高まったのだ。


「よし、それでは行くぜ、野郎ども!」


……グルル……ブルル……


社長の号令と共に、各車両のエンジンに火が灯る。


……ブゥン! ……ブゥン! ……ブゥン!


空吹かしにした廃棄音が、轟音となり身体に響いてくる。

いよいよ強襲部隊が出陣する時がきたのだ。


「たいした演説だったな、社長」


名演説を終えて降りてきた高木社長に、俺は称賛の言葉を送る。

この傑物のお蔭で部隊の士気が上がり、団結力は強固になっていたのだ。


「若い頃は消防団もやっていたから、“昔取った杵柄”というやつだ」


社長は少し恥ずかしそうに、白い歯を見せてくる。

少し緊張はしているが、高揚感で恐れはない顔。

本当に肝が座った男だ。


「そっちの方、トラック部隊は頼んだぞ、レンジ」


「善処はする。正面も頼んだぞ」


「ああ、任せておけ。思いっきり目立って引きつけておく」


今回の作戦は正面の陽動部隊と、裏口のトラック部隊の連携が肝になる。

どちらかがミスをしても作戦は失敗してしまうのだ。


俺は社長と別れ、トラック部隊の合流。

助手席に乗って出発の時を待つ。


そんな俺たち強襲部隊に、声をかけてくる者たちがいた。


「……みんな、死ぬんじゃないよ!」

「……絶対に生きて帰ってきてよぉ!」

「……パパ、頑張ってぇえ!」


留守の女子ども衆が、激励を言葉が飛ばしてきたのだ。


自分の夫や父親、深い仲の男たちを、彼女たちは複雑な感情で見送っている。


(ん? あれは……真美か)


そんな中に真美もいた。

俺の方に向けて『レンジ……生きて帰ってきてね!』と声援を送ってくる。


(ふっ。あいつも柄にないことをして)


ホームセンターでの生活で、だいぶ女衆に感化されたのだろう。

前の真美では考えられない女房面をしていた。


(さて、そろそろ出発しそうだな。ん? あれは……)


出発直前、屋上の人影に気がつく。

髪の長い女が一人で屋上にいたのだ。


(マリアか)


俺たちの出陣を、彼女も見送っていた。

手は振らず、声援も発していない。


「…………」


だが強く瞳で俺たちを見送ってくる。


――――ブゥ――――!


高木社長の運転するダンプカーが、甲高いクラクションを鳴らす。

いよいよ出撃の時が来たのだ。


――――ブゥン! ブルルン! 


強襲部隊のエンジン音が、一層高く鳴り響く。

各車両が一斉に動き出す。


向かう先は食料倉庫、百匹以上の子鬼ゴブリンの巣窟だ。


(さて、いよいよか)


こうして一世一代の俺たちの大作戦が始動するのであった。



強襲部隊は順調に進んでいた。

道中の子鬼ゴブリンを警戒しながら、少し遠回りのルートで移動してく。


そして出発から数十分後。

強襲部隊はついに倉庫前に到着する。


「よし、クラクションを鳴らせぇ!」


総大将、高木社長の指示で、正面部隊が動き出す。


――――ブゥウウ! ―――――――ブゥウウ!


無数の大型車によるクラクション攻撃。

耳鳴りがするほどの激音が、倉庫前に響き渡る。


『ゴブブ⁉』

『ゴブゥウ⁉』


倉庫の中にいた見張りの子鬼ゴブリンが、飛び跳ねて驚く。


大部隊の敵襲があったことに気が付き、倉庫内に逃げていく。

中にいる百匹以上の仲間を、援軍として呼びにいったのだ。


「よし。訓練とおり、配置につけぇ!」

「「「うぉおお!」」」


子鬼ゴブリンが来る前に、正面部隊は戦闘配置につく。


ダンプカーを中心にして、数台のトラックをVの字型に展開。

俺が教えた“鶴翼の陣”の陣形をなる。


陣形を形成後、男衆は各車両から降車。

ダンプカーとトラックの上にハシゴで昇っていく。


「絶対に子鬼ゴブリンを登らせるなよ!」

「この高台を死守するんだぞ!」

「滑り落ちないように、無理はするな!」


正面部隊の目的は敵の殲滅ではない。

陽動で時間を稼ぎ、相手を引きつけることが目的なのだ。


その戦い方も俺が発案した、高所からの攻撃。

なるべく負傷者を出さないように、投石や投げ槍、投網で、一方的に攻撃していく戦術なのだ。


(なかなかの練度と、車両の改造だな)


溶接や大工たちの手によって、ダンプカーとトラックの上は城壁のように強化済み。

あれなら子鬼ゴブリンの遠距離攻撃、投石や投げ槍は防御できるだろう。


しかも味方に大盾も装備している。

落下さえ気をつけて戦えば、正面部隊の被害は最小限になるはずだ。


(さて、俺も戻るとするか……)


そんな味方の雄姿を確認して、俺は去っていく。

裏口に近くに隠れているトラック部隊に、俺も合流するのだ。



戻ってきた俺は、トラック部隊に状況を報告する。


「……という訳で、向こうは順調。タイミングを見計らって、こっちもいこう」


正面部隊の戦いは、すでに始まっていた。


遠くから雄叫びや金属が聞こえてくる。

火炎瓶攻撃の黒煙が上がっているのも見える。

正面では予想以上の激戦が、今繰り広げだれているのだ。


裏口から侵入するのも、今ならタイミング的には悪くない。


「――――っ、ひっ⁉ い、いよいよかよ……」


短め金髪な若者、鉄男が声をもらす。

彼は今回、トラック部隊に配置されていた。


だが実は小心者の彼は、恐怖で足が震えていたのだ。


「喧嘩無敗のところを見せてくれよ、先輩」


仕方がないので俺は声をかけてやる。

今回の作戦は一人でも怖気づいたら、失敗の可能性があるからだ。


「あ、あ、当たりめぇだろう⁉ 俺さまの強さを、みんなに見せてやるぜ!」


鉄男は鉄パイプをブンブン振ります。

相変わらず技もない攻撃だが、なんとか緊張は解けていた。

これなら最低限の仕事はできるだろう。


そんな状況を見て、トラック部隊の隊長、専務が声を上げる。


「よし。こっちもきましょう!」


裏口に子鬼ゴブリンの影がないことを確認して、作戦始動が開始される。


――――ブゥウウ! ―――――――ブゥウウ!


二台のトラックが、一気に裏口に接近。


そのままピタリと搬入口に接舷させる。


㎝単位の運転テクニック。

さすがは運送のプロドライバーの運転技術だ。


「それでは見張りは中の警戒をしてください! 他の人はフォークリフト降ろして、食料を詰み込んでいってください!」


専務が指揮するトラック部隊は、7人だけの少数精鋭。

作業を分担して、次の作業に移行していく。


俺と鉄男は見張り班だ。


「ひっ――――⁉ 中は……」

「先輩、いくぞ」


怯む鉄男を引き連れて、俺は倉庫の奥に進んでいく。


見張り班の仕事は、子鬼ゴブリンはこっちにこないか警戒。

もしも近づいてきたら排除しなくてはいけないのだ。


(今のところ、近くには裏にはいいないな? これならスピーディーに積み込めるな)


二台のフォークリフトは既に作業中。

パレットのまま食料をトラックに積み込んでいた。


こちらの操縦もお見事な腕前。

専務が中心になりスピーディーに効率よく積み込んでいた。


「――――っ、ひっい⁉」


そんな時、俺から少し離れていた鉄男が、情けない悲鳴を上げる。


その視線の先には二つの影、二匹の子鬼ゴブリンがいた。


「あれは……正面から逃げてきたヤツか?」


子鬼ゴブリンは腕に火傷を負っている。

火炎瓶攻撃をまともに受けて、裏まで逃げてきたのだろう。


『ゴブブぅ⁉』


しかも運が悪いことに、相手は鉄男に気が付いていた。

このままだとあの若者は殺されてしまう。


「ふう……やるしかないな」


こうして俺にとっての戦闘も幕を開けるのであった。

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