第73話:絶体絶命の窮地に

 浄水センター守備隊は絶体絶命の危機に陥る。


『『『ゴブブゥウウ!』』』


 “魔貴族デモンズ”ガーバイルの配下、まさかの二百の援軍が到着。

 今までもギリギリで守っていたゲート前に、津波のように押し寄せたのだ。


「――――っ⁉ あ、新手だと⁉」

「ど、どうすれば、いいんだ⁉」

「これ以上は、もう無理だぞ、俺たち⁉」


 守備隊は混乱していた。


 何しろ今、彼らは全てのポンプ車は破壊されて、迎撃力はガタ落ちの状態。

 死者こそは出ていないが、激戦で体力も限界に。


 誰もが心が折れそうになっていたのだ。


「みなさん、冷静に! ここは絶対に死守するんです!」


 そんな中、唐津隊長の激が飛ぶ。


 今ゲートを破棄して避難することは可能。


 だが管理棟は防衛戦には向かない。

 “ゲート前を失うこと”は“浄水センター組の全滅”を意味するのだ。


「くそっ! やるしかないのか⁉」

「おい、誰か、武器の予備をくれ!」

「ダメだ。もう予備はないぞ!」

「くそっ……」


 何とか立ちなおしたが、守備隊はかなり苦戦をしている。

 敵の援軍が参戦して、圧倒的に数が違い過ぎるのだ。


 このままではゲートが突破されるのも時間の問題だろう


 そんな光景を戦いがなら見て、リョウマが叫ぶ。


「おい、沖田! あっちを助けに行かないと⁉」


 自分の大事な仲間が、絶体絶命の危機に陥っている。

 巨大なレギオスと戦いながらも、リョウマは気が気ではないのだ。


「落ち着け。今、俺たちが行ったら、逆に守備隊が危機に陥る」


 危険なレギオスとガーバイルの攻撃は、守備隊では対応ができない。


 つまり俺たちが今からゲート前に合流したら、守備隊が更に危機にさらされるのだ。


「――――っ⁉ くそっ!」


 単細胞なリョウマだが、戦況は把握していた。

 自分たちが特殊個体を引きつけておかないと、更に状況が悪くなる。

 大戦斧を構えて、再びレギオスを牽制していく。


「だが、どうする、沖田⁉ コイツは尋常じゃねぇぞ⁉」


 いつものは強気なリョウマが、弱音を吐くのも無理はない。

 何しろレギオスは異常なまでの防御力とタフさ。

 身体能力を強化したリョウマですら、未だに致命傷を与えられずにいるのだ。


 あとガーバイルに対しても、俺は有効打を与えていない。

 リョウマの目には絶体絶命に見えているのだ。


「安心しろ。こっちの羽付きは、俺が必ず倒す。だから、お前はデカブツの足止めを頼む」


「――――っ⁉ “お前が俺に頼み事”だと⁉ こりゃ、明日は雨が降るな」


 今までリョウマに頼み事を、俺は一度もしたことがない。だから珍しいと思ったのだろう。


「明日の天気を見るために、死ぬなよ……佐々木リョウマ」


「――――っ⁉ お、お前、俺の名前を⁉ ああ……分かった。沖田レンジ、お前も死ぬなよ!」


 互いの意思を確認して、俺たちは武器を構え直す。

 自分の対峙する獲物に向き合う。


『はっはっはぁ! 最期の別れの挨拶は終わったか、下等種めぇ?』


 援軍が駆けつけて、余裕を持ちなおしたのだろう。

 地上に降りてきたガーバイルは、不敵な笑みを浮かべていた。


『ふむ、吾輩は、いいことを思いついたぞ?』


 ゲート前の戦況を見ながら、下品な笑みを浮かべていた。


 これは……嫌な予感のする雰囲気だ。


『おい、レギオス。お前は、この二匹の相手をしろ。吾輩は“あっち”で狩りをしてくる!』


「――――っ⁉」


 そ危険の言葉を聞いて、リョウマは絶句する。


 何故なら今ここでガーバイルに、ゲート前に行かれるのは最悪の状況。


 守備隊は一方的に殺戮され、前線は崩壊。浄水センター組はあっとういう間に全滅してしまうのだ。


『おや? その顔は? いいぞ! その苦しみと後悔こそが、《混沌力》を生み出してくれるのだぁあ!』


 苦悶の顔のリョウマを見て、ガーバイルは高笑いを浮かべる。


 なるほどコイツらにとって、戦いに勝つことは、それほど重要ではないのだろう。

 人間を混乱させ、苦しませ、絶望させることを、最大の目的としているのだ。


(今、コイツを生かせるのは、マズイ。《切り札》を使うか?)


 俺が収納している二つの《切り札》は超火力。


 ガーバイルにも致命傷を与えられるだろう。


(だがコイツの反応速度と回避力は、普通ではない)


 今ここでいきなり《切り札》を放っても、奴に回避される可能性が高い。


 確実に仕留めるには、ガーバイルが隙を見せた時だけなのだ。


『はっはっはぁああ! それでは、吾輩はあっちに行ってくるぞ』


 ガーバイルは高笑いを上げて、再び空に舞う。


 このまま奴を行かせたら、ゲート前は地獄と化してしまう。

 生存能力の高い俺は、この戦いでも生き残ることは可能。

 だが浄水センター組は間違いなく全滅してしまうのだ。


(ゲート前に俺も向かうか⁉ いや、それではリョウマが……)


 今のリョウマは完全に士気が下がっている。

 俺がいなくなったら、レギオスに一瞬で殺戮されてしまうだろう。


(何か策はないのか⁉ この死地を打開する力は⁉)


 この窮地を打開するには“大きな力”が必要だった。


 ゲート前の子鬼ゴブリンを蹴散らし、守備隊に気力を持ちなおせる“強大な戦力”が。


(……ん、これは……?)


 ――――そんな絶体絶命の時だった。


 “誰かの声”が、遠くから聞こえてきた。


 ……ガッ、ガッ、ガッ……


 いや、これは声でない。


 俺の胸に閉まって小型無線機が起動し、音が聞こえてきたのだ。


『…………ガッ……ガッ……聞こえているか、レンジ……レンジ、聞こえているか……?』


 無線機の相手は男性だった。


 必死になって、俺の名前を呼んでいる。


 “その声”は俺がよく知る人物だった。


(馬鹿な⁉ どうして、“こいつの声”が⁉)


 だが俺は自分の耳を疑う。


 何故なら強化小型無線機の受信範囲は広くはない。


 “この男”の声が聞こえるには、相手がかなりの距離に接近している必要があるのだ。


 そんな時、浄水センターの南側、国道の向こうから、爆音が上がる。


 ――――ブゥウウ! ―――――――ブゥウウ!


 ――――パ――――ン! パ――――ン!


 聞こえてきたのは無数の車の排気音と、クラクションの音。


 激しい爆音が段々と、こちらに近づいてくるのだ。


『……なんだ、あれは? 下等種の乗り物、だと⁉』


 まさかの騒音集団の接近に、ガーバイルは羽を止める。


 上空から見ているコイツにも、何が起きているか理解できないのだ。


「あいつら……まさか……」


 だが俺は把握していた。


 何故ならこの騒音。

 大型ダンプとトラックのクラクションは、俺が良く知る車両のものなのだ。


 ブゥウウ! ―――――――ブゥウウ!


 パ――――ン! パ――――ン!


 爆音が浄水センターに接近

 激しいクラクションを上げながら爆走する、十台以上の大型車両が俺にも見えてきた。


 先頭の大型ダンプは、俺のよく知る男の愛車だ。


 そして小型無線機から、豪快な声が響き渡る。


『……おい、レンジ、そこにいるんだろう⁉』


 その声はパンチパーマの大男のもの。

 浄水センターの窮地に駆け付けたのは、高木社長が率いる大型車両軍団。


『約束通り、 助けにきてやったぜ、レンジ!』


 最強のホームセンター強襲部隊が、俺たちの窮地に駆け付けてくれたのだ。

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