第70話:共闘

 巨大な地竜鬼ベヒモス・ゴブリンが出現する。


 突然の巨大なモンスターの出現に、浄水センター組は混乱に陥る。


「お、おい、なんだ、アレは⁉」

「アイツがポンプ車を、やったのか⁉」

「あんな化け物、どうするんだ⁉」


 廃車投擲をまともに受けたら、人間は即死してしまう。

 死を目前にして、特に職員歩兵は恐怖で怯えていた。


 そんな時、唐津隊長が叫ぶ。


「アレは沖田さんが言っていた特殊個体です! 危険ですが数は一匹だけ! 作戦通り、みなさんは距離をとってください!」


 特殊個体の存在は事前のミーティングで、俺が全員に伝えていた。

 出現した時の対応も『絶対に戦うな』と伝えている。


「よし、移動だ!」

「あっちの部隊に合流するぞ!」


 お蔭で職員と隊員は迅速に退避。

 地竜鬼ベヒモス・ゴブリンの投擲範囲外まで距離を取ってくれる。


 よし。ここからは俺たち遊撃部隊の仕事だ。


「詩織、あのデカブツ、地竜鬼ベヒモス・ゴブリンを討て。顔を狙え」


 距離的に俺の強化スリングショットだと、かなり威力が落ちてしまう。


 だが遠距離向き用の強化洋弓ハイパーボウなら有効射程圏内。射手の詩織に指示を出していく。


「はい、分かりました。……はっ!」


 気合いの声と共に、弾丸のような矢が発射されていく。

 マグナム弾以上の破壊力を有する強化矢だ。


 ――――ガッ、キーン!


 だが強化矢は弾かれてしまう。


 顔に当たる寸前、地竜鬼ベヒモス・ゴブリンは片腕で防御。

 アルマジロのように固い皮膚が、矢を弾き飛ばしたのだ。


「――――っ⁉ お、沖田さん、あれは⁉」


 詩織が驚くもの無理はない。

 何しろ強化洋弓ハイパーボウは金属のドアすら貫通する高火力。だが今回は傷一つ負わせることが出来なかったのだ。


「落ち着け、詩織。腕で防御したということは、顔は弱点なのだろう。攻撃を続けろ」


「は、はい。分かりました!」


 詩織は気持ちを切り替えて、矢を放っていく。


 ――――ガッ、キーン!


 だが何度攻撃をしても、地竜鬼ベヒモス・ゴブリンに防御されてしまう。腕だけはなく、肩や頭部でも弾かれていく。


 そんな光景を見ながら、俺はデータを収集していく。


(なるほど。防御力は前回の大鬼オーガ・ゴブリン以上か)


 大鬼オーガ・ゴブリンも異常な防御力を有していたが、超火力ではダメージを与えられた。


 だが今回の地竜鬼ベヒモス・ゴブリンはマグナム弾級でも傷がつかない。間違いなく前回以上の防御力だ。


(動きは、それほど速くはないな。あと武器は使わないのか)


 おそらく怪力と防御力に特化した個体なのだろう。

 鈍足で小回りが効かず、怪力でゴリ押ししてくるタイプだ。


(今回の戦場では、俺たちにとって相性が最悪な奴だな)


 今回、俺たちは防衛戦を行っている。

 あの危険な廃車攻撃を連投でされたら、こちらの陣形は更に崩れてしまう。


 最終的には有利なゲート前も破棄する必要も出てくるのだ。


(ゲートを破棄して、管理棟への避難。あの相手だと、マズイな)


 管理棟や機械室を、投擲攻撃で破壊されたら、二度とシステムの復旧は不可能になってしまう。

 たとえ持久戦で奴に勝てたとしても、実質的な敗北なのだ。


(つまり、優先的にアイツを仕留める必要があるな)


 詩織が時間を稼いでくれたお蔭で、作戦は決まった。


 “接近戦で地竜鬼ベヒモス・ゴブリンを仕留める”


 かなり危険な作戦だ、実行するしか完全な勝利はない。


(あの重量級が相手か。骨が折れそうだな)


 前回の大鬼オーガ・ゴブリンは、俺一人で討伐した。


 だが今回は俺一人ではない。

 遊撃隊の仲間に声をかけていく。


「詩織、お前は、このままヤツに遠距離をしていけ」


「はい。でも、ぜんぜん通じていませんが、いいんですか?」


「ああ、牽制として上出来だ。また顔を狙っていけ」


「はい。分かりました!」


 動く相手の目や口に矢を当てるのは、正直なところ不可能に近い。

 だが詩織が遠距離攻撃をしてくれるだけで、ストレスを相手に与えることが可能なのだ。


 その間、他の者が接近戦で致命傷を与えていく作戦だ。


「おい、熱血ゴリラ。身体は動くか?」


「な、なんだと⁉ この俺がビビっていると思っているのか、沖田ぁ⁉」


 地竜鬼ベヒモス・ゴブリンの出現にも、リョウマは怯えていない。


「奴を倒しに行こうぜぇ! 早くしねぇと、前線の連中が危ないぞ⁉」


 むしろ闘争本能を高めている。

 戦闘力だけはなく、実戦にも強い性格なのだろう。これなら役に立つな。


「あのデカブツは、俺たち二人で仕留める。いけるか?」


「当たり前だ! だがよ、こんな小さな手斧で、届くか、あのデカブツに?」


 リョウマが手に持つのは消防隊員用の手斧。

 子鬼ゴブリン相手には強力な武器。

 だが5メートル近い地竜鬼ベヒモス・ゴブリンを相手にするには、あまにも小さすぎるのだ。


「それなら、コレを貸してやる」


 俺はリュックサックから、【収納】から一つの武器を取り出す。


 ――――ドン!


 取り出した武器を、リョウマの前の地面に突き刺す。


 これは《断罪の大戦斧バトルアックス》。


 前回の大鬼オーガ・ゴブリンを倒して、俺が収納していた大型の戦斧。

 長さ2メートルを超えるポールウエポンだ。


「――――っ⁉ これは⁉ お前、こんな長い物を、どっから取り出したんだ、今⁉」


「気にするな。それよりも、ソレならお前なら使えるはずだ?」


 スピードと回避を重視する俺には、《断罪の大戦斧バトルアックス》は重すぎ武器。


 だが佐々木リョウマは筋力だけなら、俺以上の怪力の持ち主。

 あと、今まで手斧を使ってきた経験で、戦斧も使いこなせるはずだ。


「斧は得意だが、こんなデカイ物を振り回すのは、さすが俺でも無理じゃねぇか……」


 大戦斧の重量は百キロ近く、どんな怪力でも持ち上げることで精いっぱい。

 力自慢のリョウマで、まともに戦闘には使えないのだ。


「“普通”は、そうだな。だから俺がコツをアドバイスしてやる。全身の意識を集中して、戦斧を持ってみろ」


「全身に意識だと? ――――っ⁉ な、なんだ、この力は⁉」


 リョウマが自分の身体能力の増大に、驚くのも無理はない。


「こんなに重そうな斧を、楽々持ち上げられたぞ⁉」


 今のリョウマは重量挙げの金メダリスト以上の身体能力。大戦斧を片手で持ち上げたのだ。


(さすがは付与の効果だな)


 俺は事前に消防服一式に、《身体能力強化〈小〉》を。

 その中でも佐々木リョウマの隊服は、特に念入りに強化しておいた。


 そのため意識を集中させたために、リョウマは本来の強化の力を発揮できたのだ。


「この力は……おい、沖田。お前は一体、何者なんだ?」


「あまり気にするな。その怪力があれば、いけるだろ?」


「ちっ……ああ、そうだな。悔しいが、今の俺は無敵感しかねぇ! この力でアイツももやってやるぜ!」


 リョウマは熱血の単細胞な性格。

 細かい疑惑よりも、仲間のために戦うことを選んでくれた。


「それでは、デカブツを倒しにいくぞ」


「お前に言われるまでもねぇ!」


 俺の合図で、二人で駆け出す。

 向かう先は対岸の地竜鬼ベヒモス・ゴブリンだ。


「ん? ところで、沖田。この川は、どうやって渡るつもりだ⁉」


 隣を駆けながら、リョウマは疑問を口にする。

 何しろ地竜鬼ベヒモス・ゴブリンにたどり着くには、数メートルの川が邪魔をしているのだ。


「その身体能力があれば、何とかなる。あと自分で考えろ」


「ちっ! 相変わらずサービスが悪いな、テメェは!」


 そう愚痴ながらが、リョウマはジャンプの体勢にはいる。

 大戦斧を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で大ジャンプを試みる。


「うっ、らやぁああ!」


 身の軽い俺は、そのままジャンプの体勢にはいる。


「はっ!」


 スタ……


 大ジャンプを成功させ、音もなく対岸に着地。


 ……ドガっ!


 遅れてリョウマが、騒音を立て転がりながら着地してきた。

 受け身を取っているので、ダメージは無いだろう。


『ゴォオオオオ⁉』


 突然、目の前に現れた二匹の人間。

 投擲体制に入っていた地鬼ベヒモス・ゴブリンは、動きと止めてこちらを向いてくる。


「早く起き上がれ。一気に仕留めるぞ」


「……くっ、分かっている! お前こそ、俺の足を引っ張るなよ!」


 こうして佐々木リョウマと初の共闘、危険な地竜鬼ベヒモス・ゴブリンに攻撃を仕掛けていくのであった。

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