ゴブリンだらけの危険な世界になったけど、俺だけ【チート付与魔術】で都市サバイバルを自由に生きていく

第７１話：有利な均衡

　佐々木リョウマと共闘して、地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）に攻撃を仕掛けていく。

　まず動いたのは血気盛んな大男。

「うぉおお！」

　リョウマは《断罪の大戦斧（バトルアックス）》を上段に構えて、正面から突撃していく。

　身体能力が強化された今、まるで猛牛のような突進だ。

「死ねぇ！」

　――――グシャ！

　地球外の金属製の大戦斧の一撃は、強烈だった。

　地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）の太い足に微かに、だが初めてのダメージを与える。

『ゴゥウウウ⁉　ガゥウウ！』

　まさか自慢硬皮が破られるとは思っていなかったのだろう。

　地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）は声を上げる。

　その隙を俺は見逃さない。

「《収納》、分銅鉄鎖（アイアン・バイケン）、セット」

　収納から強化鉄鎖を取り出し、両手で振り回していく。

　――――ヒュン！　ヒュン！　――――バッ、ゴーン！

　遠心力を利用した鉄鎖攻撃。

　拳大の鉄弾を、相手の腹部に喰らわす。

『ゴゥウウウ⁉　ガゥウウ！』

　地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）は再び声を上げる。

　腹部の硬皮は貫通できていないが、軽くヒビは入っていた。

　更に打撃武器に分類される分銅攻撃で、内部にも衝撃があったのだ。

「ナイスだ、沖田！　このまま行けるぞ！」

　自分たちの攻撃が通じて、興奮しているのだろう。

「おい、待て」

「うるせぇ！　一気にいくぜぇ！」

　俺の制止を聞かず、リョウマは再び突撃をしていく。

「うぉおお！」

　大戦斧で攻撃をしかける。

『ゴゥウウウ！』

　だが地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）は素早く反応。巨大な尻尾で反撃してくる。

　――――バッ、ギ――――ン！

「――――っ⁉　なっ⁉　うわぁああ！」

　強烈な尾のカウンターを喰らい、リョウマは吹き飛んでいく。

　――――ド、スン！

　数メートル先まで吹き飛んでいく。

「――――お兄ちゃん⁉」

　対岸から援護射撃をしていた詩織は叫ぶ。

　傍目から見たら、リョウマは死んだように見えたのだ。

「落ち着け、詩織。奴は大丈夫だ」

　だから俺は声をかける。

　リョウマは大戦斧で咄嗟に防御していたので、致命傷は受けていないはずだ。

「くったれがぁあ！」

　俺の予言とおり、リョウマすぐに立ち上がる。

　激昂しながら前線に復帰してくる。

「……くっ……」

　だが言葉とは裏腹に、かなりダメージを受けていた。足元がフラフラしている。

「だから言っただろう。こいつら特殊個体は、反応速度が尋常でない。油断するな」

　詩織のマグナム弾並の強化矢を、地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）は腕でカードしてきた。

　鈍重そうに見えても、実は反応速度はかなり早いのだ。

「くっ……そういうのはもっと早く言えよ、沖田？」

「先に言っても聞かなかったからな」

　身体能力が強化されると、人は異様な高揚感に包まれる。

　そのため他人のアドバイスを聞かなくなる。

「これで、いい薬になっただろ？」

　だが今の強烈な一撃を受けて、リョウマも目が覚めている。もう同じ失敗はしないだろう。

「ちっ……分かったよ。だが、あの尻尾攻撃があるなら、あんまり間合いに近づけないぞ？　どうするつもりだ、沖田？」

「俺がスピードでかく乱する。お前は、隙を見て斬り込め。ヒット＆アウェイを心がけろ」

　いくらタフなリョウマでも、尻尾攻撃を何回も食らうのは危険。

　だからスピードが勝る俺が囮になり、止めをリョウマに任せる作戦、と伝える。

「お前が囮で、俺が止め役か⁉　気に入った！　やってやるぜ！」

　リョウマは大戦斧を構え直して、俺から離れていく。

　地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）を前後で挟むフォーメーションをとる。

（扱いやすい奴だな）

　ここだけの話、今のリョウマの練度では、地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）には致命傷を与えられない。

　《断罪の大戦斧（バトルアックス）》の攻撃力は高いが、まだ完全に使いこなせていないからだ。

（騒がしい熱血ゴリラを囮にして、俺の《切り札》で仕留めるしかないな）

　俺の二つの《切り札》は、大戦斧以上の瞬間火力を有する。

　だから俺が“真の仕留め役”なのだ。

（《切り札》の使い時。コイツの防御力は底が読めない。見計らって、機を狙う必要があるな）

　《切り札》はどちらも弾数制限と、隙の弱点がある。

　だから無駄弾は一発も使えない。

　ヒット＆アウェイを繰り返しながら、相手の防御力と急所を探る必要があるのだ。

（それに“もう一つの危険性”も、あるかもしれないからな）

　戦場では何が起きるか予想もできない。だから《切り札》を使うタイミングは慎重にしていくのだ。

「それでは、やるぞ。足を引っ張るなよ」

「それは俺の台詞だ！　いくぞぉお！」

　こうして俺はリョウマと挟み撃ちにしながら、地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）に攻撃を仕掛けていく。

　◇

　地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）との戦いは、予想以上に長引いていた。

「死ねぇ！」

　――――グシャ！

　俺が作った隙を狙い、リョウマは大戦斧で何度も突撃していく。

「いくぞ」

　――――ヒュン！　ヒュン！　――――バッ、ゴーン！

　俺も鉄鎖分銅攻撃で、中距離からダメージを与える。

『ゴゥウウウ！』

　だが何度も攻撃を当てても、地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）は動きが落ちない。

　――――ズァアアア――――ン！

　まるでダメージを受けてないように、激しく反撃をしてくるのだ。

「ちっ……コイツ、不死身なのか⁉」

　まさかの耐久力に、リョウマの顔が歪む。

「足を止めるな。相手にも必ず限界はある」

　だから俺は声をかける。

　今のところ俺たちは圧倒的に有利だと。

「このまま削っていくぞ」

　俺がスピードでかく乱をしているため、リョウマもヘイトを浴びず攻撃を受けてない。

　一方的にヒット＆アウェイで、着実にダメージを与えているはずなのだ。

　そんな戦いの中も、俺は周囲の状況を確認していく。

（やはり子鬼（ゴブリン）は、こっちに来ないな）

　前回の大鬼（オーガ・ゴブリン）の時もそうだった。

　特殊個体の戦闘時に、子鬼（ゴブリン）は援護に来ないのだ。

　おそらくは戦いに邪魔になるため離れさせているのだろう。

　お蔭で俺たちも戦いやすい。

（ゲート前の戦況は？　あっちも優勢に進めているな）

　ゲート前では唐津隊長たちが、子鬼（ゴブリン）軍の大侵攻を迎撃していた。

　まだ子鬼（ゴブリン）の数は二百匹以上いるが、守備側の死者は出ていない状況だ。

（だが、早めに、コイツを片付けないとな）

　虎の子のポンプ車が一台破壊され、守備隊の迎撃力は半減していた。

　今は有利でも、このままだでは守備隊の体力は削られて、かなり危険な状況なってしまう。

　俺とリョウマが早めに加勢にいかないと、前線が崩壊してしまう危険性もあるのだ。

（だが、こっちも楽勝ではないな）

　今のところ俺は一撃も食らっていない。

　だが地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）の反撃とタフネスさは尋常ではない。

　焦って《切り札》を使うタイミングを間違えたら、俺ですら死の危険性があるのだ。

　もう少しだけ相手を削り、弱点と隙を狙うしかない。

（今は二対一の形で、予想以上にこちらが有利だ）

　リョウマは予想以上に奮戦していた。

　大戦斧の使い方にも慣れてきて、地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）に段々とダメージを与えるようになってきた。

　この男の戦闘センスはやはり高い。もっと経験を積めば、かなりの重戦士に成長するだろう。

（とにかく、今はこの有利な状況を崩さないように、早めに地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）を仕留めないとな）

　――――だが、そう思った時だった。

　……ドォ――――ン！

　ゲート付近に、また衝撃音が響き渡ってしまう。

　今度は爆弾のような衝撃音だ。

「――――っ⁉　ポンプ車が、また⁉」

　戦いながら状況を確認して、リョウマが叫ぶ。

　放水攻撃をしていた残り一台のポンプ車が、何かの攻撃を受けて中破していたのだ。

「みんなは……無事か⁉」

　放水攻撃をしていた消防隊員は、何とか退避していた。

　だがポンプ車はもう使えない状況だ。

「なんでも、ポンプ車が爆発を⁉　コイツは俺らが退きつけているのに⁉」

　リョウマが絶句するのも無理はない。

　地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）は俺たちと戦闘中で、投擲攻撃をしていない。

　つまり他の謎の要因で、ポンプ車は中破したのだ。

「落ち着け。つまり“別の奴”の仕業だ」

　だが俺は冷静さを保っていた。

　何故なら万が一の可能性として、この展開も俺は予想をしていたからだ。

「“別の奴”……⁉　どういう意味だ、沖田⁉」

「簡単な答えだ。見てみろ。“アイツ”が、答えだ。

　ポンプ車を破壊したであろう“存在”が、こちらに接近してくる。

　空を飛ぶ人影だ

「空を飛ぶ化け物、だと⁉」

　リョウマが言葉を失うように、相手は空を飛んできた。

　蝙蝠のような羽で、自由に飛翔できるモンスターなのだ。

　……スタッ

　そのモンスターは地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）の隣に着地する。

　大きさは２メートルの人型の生物。

　顔は少し子鬼（ゴブリン）に似ているが、明らかに違う種族だ。

『随分と、手こずっているみたいだな、レギオス？　仕方がないから、手伝いに来たぞ』

　新手の特殊個体は言語を、日本語を発してきた。

「――――っ⁉　な⁉　しゃ、喋った⁉　化け物がぁ⁉」

　リョウマが驚くのも無理はない。やや片言だが、れっきとした日本語を発してきたのだ。

『こんな下等種など、早く仕留めるぞ、レギオス』

『ウガァアアアア！』

　まさかの状況になってしまう。

　明らかに地竜鬼（ベヒモス・ゴブリン）よりも危険な特殊個体が、援軍として登場してしまったのだ。

（二対二……か。これはマズイな）

　こうして優勢な状況は、一気に崩れ落ちようとしていた。