第64話:真の救助活動とは

 浄水センターのリーダーに交渉をしにきた。

 朝食を終えたばかりの唐津隊長と、最上階の会議室で話をする。


 だが今回は“三人目”がいた。


「俺の目が黒いうちは、お前に勝手はさせないからな!」


 鋭い眼光で睨んでくる佐々木リョウマが、会議に同席をしてきたのだ。


「どうしますか、沖田さん。邪魔なら席を外させますが?」


「いや、問題はない」


 佐々木リョウマが同席しても、俺的には問題はない。ミーティングに同席を許可する。


「さて、沖田くん。急ぎの話とは、何ですか?」


「近日中に、こちらから攻撃をしかけた方がいい」


 今回、俺が提案する内容は、子鬼ゴブリン軍への先制攻撃について。


「――――っ⁉ お前、状況を分かって、隊長に意見しているのか⁉」


 唐津隊長よりも先に反応したのは、同席のリョウマ。

 かなり興奮した口調で意見を続けてくる。


「アイツらはお前が考えている以上に、厄介な集団なんだぞ⁉ こちらか攻めて出たら、また大きな被害がでちまうんだぞ!」

 リョウマが興奮して反対してくるのも無理はない。

 唐津隊長の昨日の話によると、初期の戦闘で多くの死傷が出ていた。


「だから有利な浄水センターを防衛した方が、住人の被害は少ない! 部外者は黙っていろ!」


 だからリョウマは安全な籠城策を、正論として意見してきた。


 だがリョウマ意見が間違っていることを、俺は指摘してやる。


「たしかにお前が言う通り、籠城していたら子鬼ゴブリンによる死傷は減らせる。だが、近日中に、内部から間違いなく崩壊する」


 俺が指摘したのは浄水センターの内部の問題について。


「な、なんだと⁉ どこに、そんな証拠があるんだよ⁉」


「避難民のストレスは、もはや臨界に近い。その証拠に昨夜、一人の女が襲われかけた」


「――――っ⁉ そ、そんな馬鹿な⁉」


 俺の指摘を受けて、リョウマは言葉を失う。

 真面目で正義感あふれること男は、根っからの性善説信者なのだろう。


 だが俺は構わず指摘を続けていく。


「ちなみに詩織だ。未遂だったが犯人には、俺が落とし前をつけておいた」


「くっ……アイツら⁉ もう許せん!」


 怒りが臨界に達したのだろう。リョウマは職員の部屋に所に向かうとする。


「止めなさい、リョウマ。彼らも限界なのです」


 だが唐津隊長が手を伸ばして止める。神妙な口調で制止する。


「で、ですが隊長……我々がこんなに頑張っているのに、アイツらは……」


 職員の初期に必死になってきたことを、消防隊員は知らない。

 だから非協力的な避難民に、リョウマは嫌悪感しかないのだろう。


 だが俺は構わずに言葉を続けていく。


「このままだと対立構造が引き金になり、内部崩壊する。だから早めに全住人をまとめて、士気を高め攻撃に出る必要がある。隊長、あんたなら分かるだろ?」


 総大将である唐津隊長に、俺は話を振っていく。

 ここからは駆け引きは不要、本音同士のぶつけ合いなのだ。


「ええ、私も内部の危うさは感じていました。先制攻撃をしかける必要性も。ですが、どうやって戦うつもりですか? 沖田くんも知っている通り、戦力差は絶望的ですよ?」


 武装した成人男性なら、1匹の子鬼ゴブリンを圧倒可能。

 完全武装の消防隊員なら、二匹以上も相手可能だろう。


 だが今回は消防隊員二十名に対して、子鬼ゴブリンは四百匹近い。

 こちらか討って出たら、あっという間に包囲殲滅されてしまうのだ。


「いくつか策はある。一つ目は、消防車両を戦闘用に改造して、攻撃に使う」


 これは今朝の調査で編み出した案。

 消防車両を放水戦車として使うのだ。


「――――っ⁉ キサマ、人助けの車輌を、神聖な消防車を、戦いに使うつもりなのか⁉」


 黙っていたリョウマが、再び声を上げる。

 人命救助用の消防車両を、戦のために使いたくないのだ。


 だから俺は間違いを指摘してやる。


「お前は人助け、“救助”の本当の意味を、知っているのか?」


「なっ、なんだと……?」


「“救助”とは、危険な状態にいる者を救い助けること。つまり戦い守ることでも救助だ」


 救助の本来の目的は人命救助。

 こうして消防隊のプライドを叫ぶことではない。


 真に困っている者を助けてこそ救助行為なのだ。


「そ、それは……そうだが……」


「お前のそのオレンジ隊服は飾りなのか? 上辺だけのプライドで車両を使わず、このまま誰も救わずに後悔をするのか?」


 佐々木リョウマはレスキュー隊員。

 一般消防隊員の中から選び抜かれた人員で構成され、厳しいテストをくぐり抜けてきた精鋭。


「そ、それは……」


 だからこそ誰よりも救助の大切を知っていた。

 俺の指摘を受けて言葉を失っている。


「今こそ柔軟に決断しろ。平時のプライドは捨てて、“真のレスキュー隊員として”決断するべきではないのか、佐々木リョウマ?」


 昔から俺は消防隊員には畏敬の念を持っている。

 尊敬をしているからこそ、今は厳しい言葉を発しているのだ。


「だ、だが……」


「そこまでだ、リョウマ。話の続きを聞くぞ。いいですかな、沖田くん?」


 唐津隊長がリョウマをなだめる。

 これで話を続けられる。


「消防車両の件は了解しました。ですが今の状況では、ポンプ車も、十分には使えません」


 管理棟の生活水を循環するだけでも、今の浄水センターは手一杯。

 ポンプ車まで回す水力と電力が足りないのだ。


「その問題は何とかする。あと、職員も戦闘に協力させる」


「……まさか、彼らが協力を?」


 今日の話の中で、唐津隊長は一番驚いた顔になる。


 この男も今までずっと職員に、戦闘協力を頼んできた苦労がある。だから説得は不可能だと思っているのだ。


「策はある」


「もしも、その策が成功したなら、かなりの光明です。ですが本当に可能ですか、沖田くん?」


 今の職員のやる気の無さは普通ではない。

 唐津隊長は再度確認をしてくる。


「ああ。説得に成功したら、消防車両の件は頼んだぞ」


「はい、もちろんです。我々も覚悟はできていますので」


 背に腹は代えられない。唐津隊長は提案を受け入れてくれる。


 だが、あくまでも条件付きの了承。

 俺が浄水センターの一部再起動と、職員を説得しないと無意味なのだ。


「それでは俺は準備をしてくる」


 唐津隊長とのミーティングは終わり。俺は会議室を出ていく。


 だが俺に声をかけてくる者がいた。


「おい……沖田レンジ……」


 論破されて黙っていた佐々木リョウマだ。


「口が立つみたいだが、お前のやり方を、認めた訳じゃねぇからな……」


 先ほど俺に論破されたことが、よほど悔しいのだろう。

 悔しそうに負け惜しみを発してきた。


「リベンジならいつもで待っているぞ、佐々木リョウマ」


 だが俺はこういう分かりやすい男は嫌いではない。

 背中を向けたまま返事をして、立ち去っていくことした。


「さて、次に向かうのは……噂の奴の所に行くか」


 職員の話によると、浄水センターの再起動には一人のキーマンの協力が必須。

 主任の水田という男を、まずは説得しないといけないのだ。


「さて、どんなヤツか」


 こうして厄介と噂の男のいる建物へ、俺は向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る