第46話:猟銃の射撃テスト

 二丁の散弾猟銃と弾薬を手に入れた。


「さて、テストしてみるか」


 猟銃はキレイな外観。

 だがちゃんと撃てるか、作動テストをする必要がある。


 見晴らしがよい川沿いに、俺は移動してきた。


「ここなら、少しなら大丈夫だろう」


 川沿いなので見晴らしは良い。

 発射音を聞きつけた子鬼ゴブリンや暴徒が来ても、すぐに対応が可能。

 射撃テストするのは最適な環境だ。


「まずは、こっちの銃から……ふむ。作動は問題ないな」


 久しぶりに触るが、猟銃の扱いは子どものころから慣れている。

 作動テストを確認しながら、散弾を詰めていく。


 ……パァン! パァン!


 何発か試射してみる。


「うむ。さすが鹿田厳次郎の愛用品。ちゃんと整備されているな」


 銃と弾の保管状態も悪くない。

 あと石壁の下にあったために、雨からも守られていたのだ。


「よし、次は実用性をテストするか」


 更に移動していく。

 向かう先は、昨日見つけた子鬼ゴブリンの巣。


 時間的に今、奴らはエサを徘徊の時間。巣の近隣を徘徊しているはずだ。


「いた。三匹か」


 丁度いい数の子鬼ゴブリンを発見。

 気がつかれないように尾行。


 同時に散弾猟銃の準備もしていく。


「最初は殺傷力が低い弾……“バードショット”から試すか」


 最初にテストする弾は“バードショット弾”

 鳥や小動物猟用の弾であり、小粒の弾を数十から数百も発射する散弾だ。


 有効射程距離まで接近し、狙いをつけて、引き金を引く。


 ――――パァン!


 激しい火薬音を上げて、百発以上の小さな弾丸が発射されていく。


 ――――ジュバっ!


 次の瞬間、手前の子鬼ゴブリンから、血肉が飛び散る。

 弾丸が命中したのだ。


 即死していないが、激痛で地面に転がっていた。


『『ゴブブ⁉』』


 他の子鬼ゴブリンは何か起きたか理解できず、混乱している。


「ふむ。やはりバードショットだと、内部的なダメージは与えられないな」


 名前にあるようにバードショット弾は、鳥や小動物用の散弾。

 百発以上の弾が発射されるため、命中力はかなり高い。


 だが子鬼ゴブリンサイズを即死させるには、かなり接近し、急所に当てる必要性があるのだ。

 あまり実戦的ではない。


「それなら次は二番目に威力が高い、“バックショット”を試すか」


 バックショット弾は鹿などの大型動物用の弾。

 中粒の弾を何発も発射する散弾だ。


 命中させるのはバードショットよりは難しいが、そのかわり威力は段違い。


 有効射程距離まで接近し、狙いをつけて、引き金を引く。


 ――――パァン!


 激しい火薬音を上げて、数発の弾丸が発射されていく。


 ――――ジュバっ!


 次の瞬間、二匹目の子鬼ゴブリンの血肉が飛び散る。

 骨は貫通できていないが、一撃で絶命をさせた。


「さすがはバックショット。子鬼ゴブリンに有効性が高いな」


 外国の警察や軍隊ではバックショット弾は、対人用にも使用している。

 室内戦や近距離戦では、人間大の生物にも有効な武器なのだ。


「さて、最後は一番威力が高い、“スラッグ”を試すか」


 スラッグ弾は今までの二種類とは違い、散弾ではない。

 大きめの弾丸が、一発しか発射されない。


 散弾銃が使用できる弾の中では、最も強力な破壊力と貫通力、飛距離を持つ弾だ。


 有効射程距離まで接近し、狙いをつけて、引き金を引く。


 ――――パァン!


 激しい音を上げて、巨大な弾丸が発射されていく。


 ――――ジュ、バッン!


 次の瞬間、三匹目の子鬼ゴブリンの血肉が飛び散る。

 肉と骨を貫通して、絶命をさせる。


「さすがはスラッグ弾。子鬼ゴブリンに使うにはオーバーキルすぎるな」


 スラッグ弾は本来、狩猟では熊やイノシシなど大型の獲物に使用される。

 分厚い毛皮と皮下脂肪、頑丈な骨にも有効なのだ。


 他にも木造の壁やドア、自動車のドア、コンクリートブロック、レンガ塀などを貫通可能。


 理論的な破壊エネルギーだけなら44マグナム弾を上回る。

 日本にある実質最強である狩猟ライフルと、スラッグ弾は同等クラスの破壊力があるのだ。


 三種類の弾丸を試して、俺は情報を整理していく。


「さて。猟銃で仕留めるためには、をある程度の距離まで、子鬼ゴブリンに接近する必要性はあるな」


 弾丸の種類によるが散弾猟銃の有効射程は、それほど遠距離ではない。

 動く子鬼ゴブリンを相手にするなら、20メートル以内には近づく必要があるだろう。


 ライフル弾に比べたら、かなり接近する必要がある。


「だが都市サバイバルだと、散弾はかなり有効性が高いな」


 狩猟用ライフルの有効射程は200mほど。

 だが遮へい物が多い都市戦闘において、それほどの遠距離を使う機会はない。


 都市サバイバルでは室内戦や近距離戦が多く、散弾猟銃の方が使い回しが良いのだ。


 実際に海外の特殊部隊も、室内戦では散弾銃やサブマシンガンを装備する部隊が多い。


 だから結果として、子鬼ゴブリン相手なら散弾猟銃は有能。

 中でもバードショット弾とバックショット弾が使いやすいだろう。


「ん? 来たか……」


 そんな時、接近してくる気配に気がつく。


『『『ゴブブ……』』』


 散弾銃の発射音を聞いて、近くにいた子鬼ゴブリンが集まってきたのだ。

 大軍ではないが、先ほどより数は多い。


 やはり発射音が大きい実弾は、無駄に子鬼ゴブリンを呼び寄せてしまう危険性が高いのだ。


「さて、ここからがテストの本番だ」


 だがこれも俺は想定内。


 俺は意識を集中。

 手に持つ散弾猟銃に【付与】する。


 内容は武器と相性がいい【威力強化〈小〉】だ。


「さて、付与魔術で強化した実弾、どれくらいに上がる」


 今回の試射の一番の目的は、付与をした散弾の威力をテストすることだ。


 最初は先ほど同じく、威力が一番弱いバードショット弾を装填。


 接近してくる先頭の子鬼ゴブリンに狙いをつける。

 有効射程距離まで引きつけ、狙いをつけて、引き金を引く。


 ――――バァ――――ァン!


 先ほど同じように、百発以上の小粒の弾丸が発射されていく。


 だが今まで俺が、猟銃で聞いたことないほどの激音が発せられた。


 しかも反動も強い。

 強化した筋力でも、抑えるのに力が必要なほどの大きな、発砲衝撃があったのだ。



 ――――ジュバッ、バシュ!バシュ!バシュ!バシュ!


 次の瞬間、先頭の子鬼ゴブリンの全身の血肉が、吹き飛ぶ。

 小粒だが百発以上の高速弾丸を受けて、一瞬で即死したのだ。


「これは……」


 予想以上の破壊力向上だった。

 感覚的には今の小さな一発一発に、拳銃クラスの威力がある。


 つまり子鬼ゴブリンに百発の拳銃のダメージを与えたのだ。

 しかも普通の散弾ではあり得ない、広域攻撃で。


 驚く気持ち切り替えて、次の弾に取りかかる。


「……次はバックショットだ」


 すぐさま二発目を、バックショット弾を装填。

 有効射程距離まで引きつけ、狙いをつけて、引き金を引く。


 ――――バァ――――ァン!


 数発の大きめの弾丸が発射されていく。


 バードショットを同じように、猟銃では聞いたことないほどの激音。


 先ほどの以上の反動。

 強化した筋力でも抑えるのに、かなり力が必要な発射衝撃だ。


 ――――ジュバッ、パン! パン! パン! パン!


 次の瞬間、二匹目の子鬼ゴブリンの胴体に、無数の貫通の穴が開く。

 全弾が肉と骨を貫通し、絶命をさせたのだ。


「……やはり、そうか」


 これも予想以上の破壊力向上。

 感覚的には一発一発が、ライフル弾クラスの威力がある。

 もはや対人型に使う威力ではない。まさにオーバーキルだ。


「さて、スラッグ弾も試さないとな」


 少し嫌な予感はするが最後の弾、単発弾頭のスラッグ弾を装填する。


 有効射程距離まで引きつけ、狙いをつけて、引き金を引く。


 ――――バァ――――ァン!!


 大きな弾丸が、一発だけ発射されていく。


「――――っ⁉」


 思わず声を出しそうになる。

 強化した筋力でも抑えるのにギリギリな、異常なまでの反動衝撃だった。


 強化した下半身の筋力も使い、なんとか耐えれる反動だ。


 ――――パ――――ン!


 次の瞬間、三匹目の子鬼ゴブリンの胴体に大きな穴が開く。

 肉、内臓、骨を貫通し、絶命をさせたのだ。


 しかも今回はそれだけは終わらない。


 ――――ズッ、ドン――――!

 何と子鬼ゴブリンの背後の塀まで貫通。

 一軒家の外壁と内部も貫通していた。


「…………」


 この破壊力にはさすがに俺も言葉を失う。


 感覚的には対戦車ライフル弾以上の威力があった。

 普通の人間なら反動で、自分の骨が砕ける威力なのだ。


「……ん? 砲身が」


 砲身が高温で赤くなり、異臭を発していた。

 強力すぎる威力で、オーバーヒート状態だ。


 特に最後のスラング弾の威力が大きすぎたのだろう。


「砲身も強化されているはずだが、それを威力が上回った、ということか」


【威力強化〈小〉】は威力だけではなく、物体そのもの耐久性も強化してくれる。


 だがスラッグ弾だけは【威力強化〈小〉】の耐久力を、オーバーしてしまったのだ。


「あと、俺の身体に危険だな


 強化スラッグ弾攻撃を発射した衝撃の後遺症が、まだ俺の身体に残っている。

 両手は痺れ、まともに道具を使えない状況だ。


「スラッグ弾だけは危険すぎて、うかつに使えないな」


 この状態なら俺も発射後は隙が多くなってしまう。

 もしも相手に回避されたら、反撃を食らう危険性もあるのだ。


「だが“切り札”としては、悪くない威力だな」


 この異常な高火力なら、大鬼オーガ・ゴブリンクラスの防御力にも通じるかもしれない。


「【英知乃投槍アダムス・スロアー】より威力は高いが、どちらも一長一短だな」


英知乃投槍アダムス・スロアー】は威力が高く、射程も長い。

 だが投擲まで時間がかかり、初速もスラッグ弾よりは遅い。

 そのため相手に回避されやすい弱点もある。


 それに比べて強化散弾樹のスラッグ弾……【強化単発弾マテリアル・スラッグ】は発射後の隙は大きく、射程も長くはない。


 だが【英知乃投槍アダムス・スロアー】よりも発射が格段に早く、あと初速も速く当てやすいのだ。


 どちらの切り札も一長一短で、利点と弱点があるのだ。


「特性が違う二つの切り札か。悪くはないな」


 今回の【強化単発弾マテリアル・スラッグ】は対特殊個体用の“切り札”として有能。

 いざという時は使える秘密兵器になりそうだ。


「さて、死体を収納して、戻るとするか」


 新しい“切り札”を手に入れて、俺は降魔医院に帰還するのであった。

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