第6話


「待て、アイリス!!考え直してくれ!!」


「無理だ!私はアルトがいるからこのギルドで頑張ってきたんだ。あいつが去った以上、ここに留まる意味はない」


アルトが『青銅の鎧』から追放された三日後。


ギルマスの執務室にある人物が訪れていた。

彼女の名前はアイリス。


『青銅の鎧』でアルトに比肩する戦闘力を持つ、ギルドの要である。


普段はいかに強いモンスターと戦えるかと言うことにしか興味関心がなく、ギルド運営などには一切口出しをしなかったアイリスだったが、その日初めてギルマスの判断に苦言を呈した。


それはギルマスが、メンバーに相談もなくアルトをクビにしたことについてだった。


「なぜだ!!アルトがなんだと言うのだ!!」


執務室に入って開口一番に、「アルトを解雇した理由を教えろ、さもなくばここを去る」

と言い出したアイリスをギルマスは必死に説得する。


アイリスはギルドの要であり、彼女がやめて仕舞えば、ギルド収入は目減りすることは明らかだ。


ギルマスとしてはなんとしてでも彼女を繋ぎ止めておきたかった。


「給料が足りないのか?来月から増やしてやるから、やめるなどと」


「金の問題ではない」


ピシャリとアイリスは言った。


「私が聞きたいのは、どうしてアルトを解雇したのかと言うことだ。アルトはこのギルドになくてはならない存在だ。クビにするなんて馬鹿げている」


「アルトがなくてはならない存在…?アイリス。お前は何を言ってるんだ?なくてはならない存在とはお前のような者のことを言うんだ。アルトのような無能ではない」


「あんたこそ何を言っているんだ!私などアルトの足元にも及ばない!!あいつがいなくては…このギルドはいずれ崩壊する!!」


「はっ。馬鹿なことを。買い被りすぎだ。アルトはここ最近特に功績を上げることなく足を引っ張るばかり。挙げ句の果てに後輩の手柄を横取りしようとしたという情報も入っている。そんなやつを解雇するのはギルド経営者として至極当然のことだろう」


「あいつが手柄を横取り…?そんなこと、するはずない…!」


「いいや、影に隠れてあいつはそんな悪どいことをやっていたんだ。アイリス。頼むから目を覚ませ」


「…アルトが、そんなことを…?」


アイリスはギルマスの言葉が俄に信じられなかった。


アイリスの知るアルトは、いつも実直で仲間思いであり、時には失敗を肩代わりすることもある、そんないいやつだった。


そんなアルトが仲間の手柄を横取りなんてするはずが無い。


間違っているのはギルマスの方だ。


アイリスはそう判断した。


「悪いがギルマス。あなたの言っていることが私には信じられない。そして、アルトを…あのような唯一無二の人材を簡単に解雇するあなたの正気を私は疑わざるを得ない。悪いが…もうこのギルドにはいられない」


「なっ!?アイリス…!?どこへいく!?」


「やめるのだ。退職金をくれとは言わない。荷物をまとめたらすぐに出ていく」


「ちょっと待て!!アイリス…!なぜそこまでアルトのことを……はっ!!ひょっとしてお前!!アルトに惚れているな!?」


「なっ!?ち、違うぞ!?惚れてなどいにゃいからな!?」


「……なるほど。そう言うことか」


「な、なんだその察したような顔は!!違うと言っているだろうが!!私は本当に…ほ、惚れてなんて…」


「アイリス。考え直せ。お前はアルトと違って非常に貴重な人材だ。あんな無能を追いかけることなんてない。来月から給料を倍にしてやる。だから辞めるなどと…」


「い、いや…悪いがギルマス。もう決めたことだ…私はこのギルドをやめる。け、決してアルトを追いかけるとかそう言うことではないからなっ!!」


「あっ!!アイリスっ!!」


バッと走って部屋を出ていくアイリス。


ギルマスが追いかけようとするが、自分の荷物も回収せずにものすごいスピードで出ていってしまったために、追いつくことができない。


ギルマスはバァンと乱暴に壁を叩く。


「くそっ!!我がギルドのエースが…!!」


悔しげに表情を歪める。


こうしてアルトを追放したことで、『青銅の鎧』はもう1人の重要戦闘員であるアイリスも失い、ギルド収入は激減することになる。


だが、これがまだギルド崩壊の序章でしかないことを彼らは知らない。

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