第69話
「は、犯人が分かったのですか…?」
ニーナが若干震えた声で聞いてくる。
俺は頷いた。
「まだ予想の段階でしかないのですが…先ほど、ルーナ様が倒れた時、皆がこちらに近寄ってくる中、一人だけ遠ざかろうとした者がいました…おそらくそいつが犯人かと」
普通、パーティーの主役である王女が倒れれば、心配して様子を見ようとするのが普通の反応だ。
だというのに、逆に遠ざかっていくという行動は明らかに不自然だ。
俺はそいつが、犯人でなくとも何かを知っているのではないかと思ったのだ。
「…なるほど。確かにアルトの考えが正しいかもしれません」
ルーナがそう言って、俺を真っ直ぐに見つめてくる。
「アルト…私のことはいいです。その犯人を追ってください」
「わかりました」
俺は頷いて二人に背を向ける。
「あ、アルト様がいない間は…私がルーナ様をお守りしますっ…」
「頼みましたよ、ニーナ」
背後で二人のそんな会話が聞こえていた。
二人の元を離れた俺は、犯人と思しき人物に歩み寄っていく。
その人物は一見パーティーの一参加者に見えるが、よく注意してみると、体の運び方が明らかに普通ではない。
明らかになんらかの武術の心得のある者のそれだ。
俺は人混みに紛れて気配を消しながら、そいつを観察する。
「ん…?」
不意に男に動く気配が。
俺は人々をかき分けて、不審な動きを見せる男を追う。
「どこへ行く…?」
男はパーティー会場の端の方まで行くと、そのまま会場から出て行ってしまった。
「このまま追いかければ流石に気付かれるか…」
相手は素人ではない。
パーティー会場はたくさんの人がいたからよかったが、ここから外に出て尾行を続ければ間違いなく気配を悟られるだろう。
かといって大見え切って二人の元を離れた手前、収穫ゼロでは情けない。
「こういう時は…」
俺は魔法を使って尾行を続けることにした。
「インビジブル」
透明化の魔法だった。
俺の体は周囲に溶け込み、見えなくなる。
同時に気配も消えた。
これであの男に気づかれずに尾行を続けることができる。
「さて…追うか」
俺は足音を立てないように素早く動いて、男の出て行った扉からパーティー会場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます