第70話


ルーナ王女に毒を持った犯人と思しき男を追って俺はパーティー会場を後にした。


男は会場を出た後、長い廊下を歩いていく。


俺は10メートルほどの距離を置いて、その後を追った。


インビジブルの魔法を使っている俺の気配に男が気づく様子はない。


俺は念のため、一定の距離を保ちつつ尾行を続ける。


「…?」


不意に長い廊下を歩いていた男の前方に人影が。


近づいていくにつれて、そのシルエットが次第にはっきりしてくる。


「……(女…?)」


それはドレスを身に纏った女性だった。


赤毛の、品のある雰囲気の美女だ。


顔立ちがどことなくルーナ王女に似ている。


男の目的は、どうやらそのドレスの女性のようだった。


「どうだったの?カゲル」


目の前で足をとめた男に向かって開口一番にドレスの女性が尋ねた。


男は申し訳なさそうに首を振って、首を垂れた。


「失敗しました…申し訳ありません」


「…っ…使えないっ」


ドレスの女性が舌打ちをした。


男の体がビクッと震える。


「名うての暗殺者だと聞いて雇ったのに…小娘一人殺せないの?」


「…返す言葉もございません」


「何があったの?あなたが失敗するぐらいだから、何か予定外のことが起こったのでしょ

う?」


「はい、実は…」


顔を上げた男が、ドレスの女性に向かって弁明するように話し出す。


「邪魔が入ったのです。ルーナ様に毒を盛るところまではうまく行ったのですが…毒の効き目が現れたタイミングで近くにいた魔法使い

がルーナ王女の治療を…」


「治療…?あなたの毒を…?一体どうやって?」


ドレスの女性の顔が困惑気味になる。


カゲル、と呼ばれた男がおどおどしながら言った。


「見たところ回復魔法に見えました…解毒したのではなく、強力な回復魔法で無理やり体

内の毒を浄化したのでしょう」


「回復魔法で?冗談でしょう?」


ドレスの女性がはっと息を吐いた。


「体に回った毒を魔法で浄化って…相当強力な回復魔法じゃないと不可能だわ。それこそ、エクストラ・ヒールとかそのレベルよ」


「それはそうですが…」


「本当にその男は回復魔法を使って治療をしたの?」


「私にはそう見えました」


「そう…」


はぁ、と女がため息を吐いた。


「ま、いいわ。パーティーが終わるまでにまだ暗殺のタイミングはあるでしょう。あなたにもう一度だけチャンスをあげる。なんとしてでも今日中にルーナを暗殺しなさい」


「お、仰せのままに…ミッシェル様…」


女が決定的な言葉を口にする。


やはりこいつが首謀者か。


そして俺の見立て通りカゲルと呼ばれたこの男が、毒を盛った犯人……暗殺者で間違いないらしい。


俺は透明化で身をひそめながら、引き続き二人の会話を注意深く見守るのだった。






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