第68話


俺はいまだ足元がふらついているルーナ王女が立ち上がるのを補佐する。


「ありがとうございます、アルトさん」


俺の手を借りて、立ち上がるルーナ。


「おい、大丈夫なのか…?」


「ルーナ王女…?」


「体調がすぐれないのですか…?」


周囲にはルーナが突然倒れたことで心配した貴族たちが集まってくる。


「ありがとうございます、皆さん。少し立ちくらみがしただけで、この通りなんともありません。引き続きパーティーをお楽しみください」


そんな彼らに対して、ルーナがそう言った。


「そうか…よかった…」


「ルーナ王女は無事だぞ…!」


「お気をつけください、ルーナ王女。なんなら今日は休まれては?」


ルーナの言葉に、集まってきていたパーティー参加者たちはホッと胸を撫で下ろす。


中にはルーナの体調を慮る者もいる。


そんな者たちに対して、ルーナはにっこりと笑って首を振った。


「ご心配ありがとうございます。けれど大丈夫です。ほら、この通り、問題ないので」


そう言ってその場でくるりと一回転してみせる。


「大丈夫そうだな」


「安心した」


それを見た貴族たちは安心したように胸を撫で下ろして、離れていく。


「はぁ…なんとか騒ぎにならずに済みましたね」


ルーナが安堵の息を吐いた。


それから俺へと視線を移す。


「本当に、助かりましたよ、アルトさん。まさか、こんなにも早くあなたに命を救われるとは」


「ご無事で何よりです」


「それにしても…まさかあなたがエクストラ・ヒールを使えるほどの使い手だったとは…あれほどの近接戦闘の技術に加え、魔法にもこれだけ長けているとは…アルト。あなたに護衛を頼んだ私の目に狂いはありませんでした」


「お褒めに預かり、光栄です」


エクストラ・ヒールは別にそれほどの魔法ではないのだがな。


まあ、王女は世間に疎いのだろうから、仕方ないだろう。


「る、ルーナ様…ご無事で何よりです…っ」


ニーナが潤んだ瞳でルーナを見つめる。


ルーナが優しげに微笑んだ。


「ニーナ…早速あなたの従者に救われてしまいました。このたび力を貸してくれたことを感謝しますよ」


「いえ、そんな…私にはもったいないお言葉です…他に力になれることがあればなんでもおっしゃってください」


「ありがとう。頼もしいわ」


ニーナとルーナが互いに手を握り合う。


そんな微笑ましい姿をもう少し見ていたかったが、俺には少し確認すべきことがあった。

「ルーナ様。少しいいですか?」


「はい…なんでしょうか?」


「十分ほど、この場を離れます」


「…?それはどうして?」


ルーナの表情が不安に曇る。


そりゃそうだろう。


たった今殺されかけたのだから、護衛が離れることを不安に思うのは普通だ。


だが、俺が今この場を離れたとしても王女が狙われる可能性は極めて低い。


「あ、アルト様…?護衛はどうするのですか…?」


ニーナが訪ねてくる。


「安心してください、そこまでの時間は離れません」


俺はルーナにそう約束する。


「た、たとえ一時でも離れるのは…」


さらに言い募ろうとするニーナを手で制して俺は言った。


「犯人らしき人物を見つけたのです。追えば、ルーナ様を暗殺しようとした首謀者にたどり着けるかもしれない」


「「…っ!?」」


二人の目が驚きに見開かれた。




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