第63話


「アルト様!!先ほどのナイトバトル、素晴らしかったですわ。ぜひ私と踊ってくださらない?」


「アルト様。そんな貧乏貴族なんかより、この私と踊ってくださいな。後悔させませんわよ」


「アルト様!私ともぜひダンスを…!」


「アルト様っ!!」


「アルト様っ、アルト様っ!!」


次々と言い寄ってくる令嬢。


俺は必死に笑顔を保ちながら、必死にこの場から走って逃げ出したい衝動を抑える。


ああ、またこのパターンかと。


確か前回のパーティーでもナイトバトルの後にたくさんの貴族令嬢に言い寄られて困ってしまった。


この間は、なんとか全員に応えて踊りきったのだが、今回はその手は使えない。


なぜならパーティーの規模が違うために、現在俺の周りを取り囲んでいるお嬢さん方の数も倍以上だ。


流石にこの人数一人一人と踊っていたら身がもたない。


だが、四方を囲まれていて身動きが取れない。


「アルト様っ!!」


「アルト様!」


「アルト様ぁああっ!!」


本当にどうしたらいいんだろうか、これは。


俺がすっかり困り果てていると…


「アルト様。ぜひ私と踊ってくださらないかしら」


凛とした声音が響いた。


全員が背後を振り返る。


「る、ルーナ様!?」


「ルーナ様よ…」


そこに立っていたのはルーナだった。


ドレスを摘んで、こちらに向かって手を差し伸べている。


女性が男性を誘うときのポーズだ。


「く、悔しいけど…ここは引き下がらないと…」


「ど、どうぞルーナ様」


流石に王族を蔑ろにするわけにはいかなかあったのか、貴族の令嬢たちがささっと道を開ける。


俺はルーナに歩み寄ってその手を取った。


「喜んで」


こう言うしかない。


彼女は王族で、さらにはこの生誕祭の主役だからな。


この状況を抜け出すためにも、とりあえずここはルーナと踊るとしよう。


「うふふ。アルトリアの騎士と踊れるとは光栄です。それにしても、人気者は大変ですね」

ルーナが後の貴族令嬢たちをチラリと見ながら言った。


「あれ…もしかして俺を助けて…?」 


「さて、どうでしょう?」


ルーナが意味ありげな笑みを浮かべる。


ともかく俺はルーナと共に会場の中央へ歩き、ルーナの肩と腰に手を当てて音楽に合わせ、体を揺らし始めるのだった。





二曲、俺はルーナ王女と終わった。


三曲目に突入し、いつ切り上げるのだろうと俺は考え始める。


なぜかさっきからニーナがこちらを睨んできているのだ。


そういえば前回のパーティーの時も、俺が貴族令嬢たちと踊っていると終始睨みを効かせていたな。


自分のところの騎士が他の特権階級と踊っていると言うのは、あまり貴族としては嬉しい状況ではないと言うことなのだろうか。


しかし許せよニーナ。


相手は王族なんだ。


「それにしても、あなたは本当に強いのですね。先ほどのナイトバトル、驚きました」


唐突にルーナがそんなことを言った。


「ありがとうございます」


「国に名を轟かせるオークスレイヤーを攻撃せずに倒してしまうなんて、普通では考えられないことです」


「い、いえ…あれは向こうの自滅に近かったというか…」


「謙遜は必要ありません。この会場の誰もが、今日、あなたの実力を目の当たりにしました」


「…ははは」 


俺はどう言っていいか分からず、乾いた笑いを漏らす。


そんな中、ルーナ王女が急に俺を真剣な表情で見つめてきた。


「そんなあなたに…実は一つ頼みがあるのです」


「…はい?頼み?」


首を傾げる俺に、ルーナが言った。


「今日一日…私の騎士をしてくれませんか?」



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