第62話


オークスレイヤーの動きは見た目に反して素早かった。


思い一撃というよりも、手数で圧倒するタイプの戦い方だ。


「ビジョナップ」


俺は動体視力をあげる魔法を使い、オークスレイヤーの攻撃を見切る。


「おおおお…!」


「すごい…!」


「なんて素早い動きだ…!」


「オークスレイヤーの動きも見事だが…アルトリアの騎士も負けてないぞ…!」


スレスレの攻防に周りからはどよめきが起こる。


「おおおおおおお!!!」


攻撃を避け続けていると、オークスレイヤーが低い唸り声を上げながら、ヒートアップしていく。


剣のスピードはどんどん速くなり、繰り出される攻撃の数も上がっていく。


とても常人の動きとは思えない。


俺は動体視力を上げるビジョナップに加えて、自らの動きを加速させるアクセラレートという魔法を使い、対応する。


ヒュババババ!!!


長剣使いとは思えない速度でオークスレイヤーが剣をふる。


俺はステップを踏み、身を翻し、上体を逸らして攻撃を避けるが、すぐ耳元で剣の空気を切る音が鳴っていた。


ふむ…


あまりに動きが人間離れしていて、なかなか反撃の糸口が掴めない。


さすが国中に名を轟かせるほどの実力はあるようだ。


しばらくは避けながら様子見だな。


「おおおおおおおおっ!!!」


「ーーーーッ!」


俺は自分からは手を出さずに、しばらくは回避に徹する。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


不意にオークスレイヤーが動きを止めた。


膝をつき、肩で息をする。


「…?」


こちらからは何もしていないというのに、一体どうしたというのだろうか。


体力切れか…?


「あぁ…なるほど」


オークスレイヤーの体から湯気が立ち上る。


体内に相当な熱が籠っているようだ。


それを見て、俺はオークスレイヤーの人間離れした動きのカラクリがわかってしまった。


「バーサークの魔法か」


強化魔法バーサーク。


その効果時間は10秒程度と短いが、その間、信じられないような身体能力を発揮することができる。


ただ、この魔法はデメリットも大きくて、一度使い効果時間が切れると、ほとんど体力が底をつき、動けなくなってしまう。


ちょうど目の前のオークスレイヤーのように。


おそらくオークスレイヤーの算段としては、バーサークの魔法で短期決戦を狙ったのだろう。


だが、俺に攻撃を避け切られてしまったために体力が底をつき、何もできなくなったというところか。


「な、何してるのオークスレイヤー!!立ちなさいよっ!!立ってあいつを倒してっ!!」


エミリアが甲高い声を上げるが、オークスレイヤーは動かない。


「か、乾杯だ…まさか全ての攻撃を避けられるとは…」


兜の奥から低い声が聞こえてきた。


「俺の負けだ…もう体力が残っていない」


そう言ってオークスレイヤーはよろよろと立ち上がり、剣を納めた。


ナイトバトルは終了。


結果は俺の勝ちだ。


「「「おおおおおおお!!!!」」」


周囲から歓声と拍手が沸き起こる。


「そ、そんな…どうして…?国1番の戦士でも勝てないなんて…?」


エミリアは呆然と俺を見ている。


俺は剣を納めて、自らの主人であるニーナの元へと向かった。


「勝ったぞ、ニーナ」


「はい、見ておりました!」


ニーナが笑顔を弾けさせた。



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