第61話


「なんだなんだ…?なんの騒ぎだ…?」


「アルトリア家とイグニス家がナイトバトルをするみたいだぞ…」


「またか…」


「アルトリアとイグニスはいつも争っているな…」


「今回もイグニスの方から突っかかったらしいぞ…」


「イグニスのエミリア嬢は、アルトリアに対抗心を燃やしているからな…」


周囲を囲む貴族たちのそんな囁き声を聞きながら、俺はイグニス家の令嬢、エミリアと向かい合う。


エミリアがふんと鼻を鳴らした。


「今度は負けませんわ。あなたに勝つために、私は最強の騎士を雇ったのですから」


どうやらエミリアは、前回のガレスに変わってまた新たな騎士を雇ったようだった。


「来なさい、オークスレイヤー!!」


エミリアが背後に立っていた男に向かって指示を出す。


ガシャンガシャンと音を立てて、全身鎧に包まれた騎士が歩み出てきた。


「「「おぉおおお…」」」


周囲からざわめきが起きる。


エミリアが出してきた騎士が、なの通った有名な戦闘狂だからだ。


かく言う俺も、その人物を知っていた。


オークスレイヤー。


全身を鎧に包み、決して顔を見せない、変人の冒険者。


受けるクエストは全てがオーク狩り。


オーク以外のモンスターに興味がなく、生涯を賭してオークを狩り続ける、そんな冒険者だ。


噂によると、昔オークに妹を殺され、それからオークを憎むようになり、オークをこの世から駆逐するために冒険者になったらしいが、定かではない。


ともかく、その戦闘力は、国中に知れ渡るほどになっていた。


「お、オークスレイヤー…まさかそんな大物を騎士として雇っていたなんて…」


その威圧感にニーナがたじろぐ。


「あ、アルト様…どうかお気をつけて」


「任せろ。負けはしないさ」


俺は剣を抜き放つ。


オークスレイヤーが、ヌッと前に出てきた。


少し高い位置から俺を見下ろす。


兜の間から見える鋭い眼光が、俺を捉えていた。


「さあ、オークスレイヤー!!そいつをやっつけなさいっ!!そうすればあなたの望みどおり、もっとたくさんのオークを狩らせてあげるわよ!!」


「…」


オークスレイヤーは無言だ。


しかし、爆発的なまでの殺気が放たれ始めた。


なるほど。


会うのは初めてだが、確かに強者の雰囲気を感じる。


オークばかり狩っているからといって油断はしないほうがよさそうだ。


「さあ、誰か開始の合図をやりなさい」


「で、では私が…」


待ちきれないというエミリアの声に、一人の貴族が答える。


俺たちは互いに数メートルの距離をとって対峙する。


「「「…っ」」」


周囲の貴族たちは固唾を飲んで俺たちを見守っている。


「で、では…行きます…さん、にー、いち…初めっ!!!」


「ーーーーッ!!!」


開始の合図の直後、オークスレイヤーが地面を蹴って一気に肉薄してきた。


地面が抉れるほどの踏み込み。


その巨体に似合わぬ速さで、容赦ない一撃を俺に放ってくる。


ナイトバトルはそんなふうにして始まった。



〜あとがき〜


新作の『トラックに轢かれて気づいたら白い世界のオーソドックスな異世界転生!〜成長チート、言語チート、魔法チートの三つのチートを駆使して剣と魔法の世界を生き抜きます〜』が連載中です。


よろしくお願いします。

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