第60話
「ルーナ王女、紹介します。こちらは我が騎士のアルトです」
ニーナが、王女に俺のことを紹介する。
俺は作法に則って一礼する。
と、王女が微笑んで手を差し出してきた。
「え…」
王侯貴族の間では、手を差し出すということは、手の甲にキスをしろという意味を指す。
俺は思わずニーナを見てしまった。
いいのだろうか。
俺如きが手とはいえ王女に口づけをしてしまって。
「あ、アルト様…ルーナ様がいいと言っているのですから…」
ニーナがちょっと震え声でそういった。
何かを我慢しているようにも見える。
「じゃ、じゃあ…」
俺は王女の手を優しく取って口をつける。
王女が嬉しそうに微笑んだ。
「あなたのお噂は聞いています。イグニス家とのナイトバトルで、ガレス隊長を打ち破ったとか…」
「は、はい…一応」
そういえばこの間のナイトバトルの相手は、元々お受けに使える騎士だったな。
「すごいですわ…私、昔剣の稽古でガレス隊長と隊長と手合わせをしてもらったことがあるのですが、全然歯が立ちませんでした。あのような強い方を一瞬で倒してしまった騎士がいると聞いて、気になっていたのです」
ぎゅっと、ルーナ王女が俺の手を握ってくる。
絶世の美女のしかも一国の王女にそんなことを言われ、俺はタジタジになってしまう。
「は、はは…そうですか…光栄だなぁ…」
「ちょ、る、ルーナ王女っ、そ、その辺にしてはいかかでしょうかっ」
と、ニーナが慌てたように割り込んできた。
俺の手を握るルーナを引き剥がし、料理を指さす。
「食事をしながら二人でゆっくり話しませんか?あ、あまり王女がいち騎士と長らく会話をしていると変に思われてしまいます」
「あら、そうかしら…?うふふ」
ルーナ王女がおかしそうに笑った。
俺とニーナを意味ありげに見比べ、それから頷いた。
「わかったわ、ニーナ。じゃあ、二人でダンスでもしましょうか。会うのは久しぶりなのだし、そういうのもいいでしょ?」
「は、はい…私でよければ喜んでお相手を務めさせていただきます」
どうやら二人はダンスをすることになったようだ。
二人で腕を組んで、人々が踊っている中央へ歩もうとする。
…と、そんな時だ。
「見つけましたわ!!ニーナさんっ!!」
聞き覚えのある甲高い声が響いた。
「エミリア!?」
ニーナが驚いた声を出す。
そう。
そこにいたのは、前回のパーティーでナイトバトルを仕掛けてきた貴族娘、エミリア・イグニスだった。
好敵手を見つけたかのような視線をニーナに向けている。
俺はなんだか嫌な予感がしていた。
「ニーナ。ようやく見つけたわ。さあ、私がきたということはわかっているでしょうね?」
不敵な笑みを浮かべながらそんなことを言
う。
「いいえ、わかりません。なんのことだかさっぱりわかりませんっ」
ニーナが首をブンブン振って聞こえないふりをする。
だが、その程度で引き下がるようなエミリアではない。
「ナイトバトルよ!!私とあなたがパーティーであったならば、それ以外にやることがないでしょ!!」
「どうしてそうなるのですか!!せっかくのパーティーなのですから、食事を楽しんだり、ダンスを踊ったりしましょうっ、そっちの方がいいですからっ」
「そんなの退屈でつまらないわ。それよりも私は前回味わった屈辱を忘れない…また新しいナイトを雇ったんですわ。今度こそ、あなたに勝つ」
ここまでのセリフを、エミリアは周囲を顧みない大声で喋っていた。
当然こちらに注目は集まってくる。
「なんだなんだ…?」
「またイグニス家のお嬢さんがアルトリア家に絡んでいるらしいぞ」
「毎度懲りないなぁ…」
どんどん人がこちらに集まってくる。
あぁ、まずい。
なんか見たようなパターンだぞ。
「と、というかエミリア。あなたとても無礼ですよっ、ルーナ王女の前でっ…!」
「ん?あ、いたのね、王女様」
今更ながらルーナの存在に気づいたエミリアが、ニーナの隣のルーナ王女へと視線を向ける。
「誕生日おめでとうございますですわ」
「ありがとう、エミリア」
ルーナは気を悪くしたふうもなく微笑んでいる。
どこか楽しそうですらあった。
性格が温厚なのは本当らしい。
それとも彼女もこの状況が面白いと思っているのだろうか。
「はい、挨拶はすみましたわ。と言うわけで、ニーナ。ナイトバトルをやるわよ」
「嫌です」
「なんでよっ!!」
エミリアが地団駄を踏む。
駄々っ子にょうだ。
「受けなさいよっ、ナイトバトル」
「今日は無理です。私は今からルーナ様とダンスをするところだったんですから。ルーナ
様、いきましょう」
「あら、ニーナ。別に私とのダンスなんてあとでいいわ」
「ふぇ!?」
ルーナの思わぬ答えに、ニーナが素っ頓狂な声をあげる。
ルーナがどこかワクワクした表情で言った。
「ナイトバトル、受けてあげたらいいじゃない。私もあなたの騎士の実力が見たいです」
「そ、そんなぁ…」
ルーナがエミリアに加勢すると言う状況になり、形勢が一気に逆転。
ニーナが泣きそうな顔になる。
「ふふっ、王女もこう言ってるわ。ニーナ。あなたには受ける選択肢以外ないのよ」
王女を味方につけたエミリアは得意顔だ。
ニーナが俺の方を見る。
「あ、アルト様ぁ…すみません…ナイトバトル…受けてもいいでしょうか?」
「あ、あぁ…わかったよ、仕方がない」
この状況では断れないだろう。
俺はアルトリア家の面子を立てるためにまた人肌脱ぐことになった。
〜あとがき〜
新作の『トラックに轢かれて気づいたら白い世界のオーソドックスな異世界転生!〜成長チート、言語チート、魔法チートの三つのチートを駆使して剣と魔法の世界を生き抜きます〜』が連載中です。
よろしくお願いします。
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