第26話


ガイズの率いる『青銅の鎧』の精鋭部隊は、いよいよ二十階層のボス部屋へと足を踏み入れる。


一行がボス部屋へ入ると、暗かった空間に松明が灯った。


そして中央に鎮座するボスの姿が露わになる。


「ミノタウロス…」


「勝てるのか…俺たちだけで…」


「不安だ…」


体長5メートルはあるボスの姿が露わになる。


二十階層のボスモンスター、ミノタウロス。


一匹で小さな街一つを滅ぼせると言われるほどの戦闘力がある。


ギルド『青銅の鎧』はこれまでに何度もミノタウロスと戦って勝ってきているため、決して無謀な戦いというわけではない。


しかし、メンバーは同時に、これまでこの化け物に勝ってこれたのは、アルトとアイリスの働きが大きかったことを十分に理解していた。


あの2人なくしてミノタウロスに勝てるビジョンが、メンバーにはほとんど見えていなかった。


そんな中、ガイズだけが浮き足立ってミノタウロスに対峙している。


「こいつを倒せば…アルトリア家との繋がりができる…『青銅の鎧』の名声は鰻登りだ…」


ニヤリと笑うと、いつものごとく手柄欲しさに1人で突っ込んでいく。


「お、おい!?」


「ガイズ!?」


「やめろ!!突っ込むな!!」


メンバーが制止の声を上げるが、ガイズは止まらない。


「ヒャッホウ!手柄は俺のものだ!!てめーらには渡さねぇ!!」


剣を振りかぶってミノタウロスに突進していく。


「死ねぇええ!!みのたうろ…ぶへぇ!?」


ゴキ!と鈍い音がなった。


ミノタウロスの放った右拳が、ガイズの体の中心にヒット。


ガイズの体は簡単に吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。


「かひゅ…かひゅ…」


ガイズは一発で瀕死に陥ってしまった。


血反吐を吐きながら、短い息を繰り返している。


「言わんこっちゃない!!」


「おい誰か!!このバカを治療しろ!!」


「お前らやるぞ!!」


すぐにメンバーが陣形を組んでガイズを守る。


その間にガイズを治療係の数人が、魔法で治療する。


やがて、虫の息だったガイズがだんだんと回復してきた。


「な、なんで…」


起き上がったガイズは、信じられないと言った表情でミノタウロスを見た。


早すぎた。


自分が何をされたのかもわからず、気づいたら吹っ飛んでいた。


これまでこんなことはなかった。


どれほど強いモンスターと戦ったところで、自分はある程度太刀打ちできていたはずだ。


ガイズには、目の前の現実が理解できなかった。


「今までなら…もっと簡単に…」


ガイズはこれまでよりもひときわ強いミノタウロスの個体を引いたのかと思った。


だが、現実は違う。


実は彼がこれまで強いモンスターと渡り合えていたのは、全てアルトの身体強化の魔法のおかげだった。


肉弾戦が得意なアルトは、それ以上に魔法にも優れており、戦いの際は常に仲間全体に身体能力強化の魔法をかけていた。


その恩恵に、ガイズ以外のメンバーは気づいていたが、ガイズだけが己の力だと過信していた。


故に、ガイズはなぜ自分がミノタウロスに瞬殺されたのかが理解できなかった。


「く、くそ…何かの間違いだ…さっきは油断したから…」


ガイズはよろよろと立ち上がり、剣を構えて戦いに参戦する。




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