第7話


『緋色の剣士』のミリアとの勝負に勝った俺は、貴族家カトラスに騎士として雇ってもらうことになった。


『青銅の鎧』を唐突に解雇され、一時はどうなるかと思ったが、偶然のニーナとの出会いで、無事に新たな職につくことができた。


これからは、屋敷を警護したりするだけで毎月高額の給料が入ってくるという楽な人生を送れる。


まさに人生の勝ち組。


…そう思った時期が俺にもありました。


「話が違います、お父様!!あの勝負に勝てば、アルト様を騎士として雇ってくださるという約束だったではないですか」


アルトリア家の屋敷にニーナの声が響き渡る。


俺がミリアとのタイマン勝負に勝った三日後。


騎士としての勤務日初日ということで、俺がアルトリア家の屋敷を訪れたら、なぜか騎士になる話がなかったことになり、すぐに帰れと言えわれてしまった。


これは一体どう言うことだと、今現在ニーナと共にカイル・アルトリアに抗議しているところである。


「私も最初はそのつもりだった。しかし、その者は不正を働いて、自らの実力を偽装した。よって騎士として雇うことは出来ない」


「どう言うことですか?」


ミリアと戦えば俺を騎士として雇うとこの男は確かにそういった。


なのに、不正?


意味不明だ。


「どう言うことですか、お父様」


「どうもこうもない。お前も見ただろうニーナ。三日前の勝負を」


「ええ。見ました。アルト様は確かにお父様が雇った冒険者の方を倒されました。お父様は約束を守るべきです」


「いいや、此奴は不正を働いた。あのミリアという冒険者に、手加減をするように働きかけたのだ」


「手加減…?どういうことです?」


なんだそれ。


俺とミリアは正々堂々闘った。


どちらも手を抜いた覚えはない。


「手加減したに決まっている。私は、あのミリアという冒険者が相当な実力者だと聞いたので雇ったのだ。そんな実力者を…ああもやすやすと倒せるはずがない。此奴はあの冒険者と知り合いだったみたいだからな。どこかのタイミングで口裏を合わせたのだろう」


「それは違う!俺たちは真剣に戦った。不正なんてしていない」


確かにミリアは実力者だ。


しかし冒険者としての経験がまだまだ不足している。


だから、俺が勝ったのだ。


仕組んだわけでもなんでもない。


「アルト様は不正なんてしません!お父様は約束を守るべきです!」


「いいや、不正だ!!インチキだ!!あんな一瞬で実力のある冒険者が倒されるなんてあり得ないんだ!!」


頑なにそう言って聞かないカイル。


俺はなんだかがっかりした気分だった。


貴族とは、こうも簡単に約束を覆すような程度の低い奴らなのか。


「そうですか…ならもういいです」


抗議するのが馬鹿らしくなった俺がその場を立ち去ろうとするが。


「お、お待ちください、アルト様!!私が、お父様を説得しますので…どうか!」


「いや、あんたの父親はどうあっても俺を雇いたくないみたいだぜ?」


「いえ…アルト様は不正なんてしてません!私がそれは承知しております…!どうか、怒りをおさめてください」


「…む」


涙を目尻にためたニーナに言われ、流石に俺は足を止める。


そして、いまだに俺に軽蔑するような視線を向けてきているカイルにいった。


「どうあってもあの戦いは不正だったというのですか?」


「ああ。私はお前の実力をまだ認めていない」


「はぁ…なら、どうやったら俺の実力を認めてくれるんですか?」


尋ねた俺に、カイルは鼻を鳴らしながら行った。


「はっ…そうだな…また冒険者と戦ったとて同じ不正を働くかもしれんし…西にある石山に登って、ドラゴンでも討伐してきたら、実力を認めないこともない」


「石山のドラゴン…というとストーン・ドラゴンですか」


ここから西に数キロ行ったところには、大きな石山の山脈がある。


そこは年中ストーン・ドラゴンというモンスターが飛び交っているような危険な場所で誰も踏み入ろうとはしない。


カイルは…そこへ行ってきて、ストーン・ドラゴンを狩ってこいと言っている。


「お、お父様…!いくらなんでもそれは…」


「なんだ?一流の冒険者を倒す実力があるなら、それぐらいやってもらわなくては」


「ど、ドラゴンを1人で討伐なんて、無理に決まってます…!」


「無理なら騎士になる話はなかったことにさせてもらう」


「お父様は卑怯です!」


今にもカイルに飛びかからんばかりのニーナ。

俺はそんな彼女を制していった。


「いいですよ。ストーン・ドラゴンを倒してこればいいんですね。わかりました」


「ああ。出来るものならやってみろ。もし本当にストーン・ドラゴンを討伐したのなら、今度こそ貴様を騎士として雇ってやる」


「その言葉、今度こそ忘れないでくださいよ」


カイルに念を押した俺は、背を向けてその場を後にした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る