第35話


悪ガキ3人組は森の中を駆け回り、アルトを発見する。


「居たぞ…!」


「さっきの騎士だ…!」


「何してるんだ?」


3人はこっそりと木の影からアルトを伺う。


アルトは立ち止まって周囲を見回していたが、やがて目的地を見つけたかのようにある方向に向かって歩き出した。


3人も足音を殺してついていく。


すると間も無く、アルトの目の前に一匹のゴブリンが現れた。


「みろ、ゴブリンだ…!」


「戦うぞ…!」


「アルトリア家に仕える騎士だろ…?ゴブリン何秒で倒せるか計っとこうぜ」


3人は固唾を飲んで、アルトの戦いを見守る。


不意に剣を握ったアルトの右腕がブレた。


「え?」


「は?」


「あ?」


3人とも口をぽかんと開ける。


何が起こったのか、彼らには目視できなかった。


理解できたのは結果だけ。


切断されたゴブリンの腕がボトッと地面に落ちた。


『ギャアアッ!!ギエエエエ!』


ゴブリンが悲鳴をあげて逃げ出した。


「「「す、すげぇえええ!!」」」


3人は目を丸くする。


「い、今何したんだ!?」


「早すぎて見えなかったぞ!!」


「あれがアルトリア家の騎士か!!」


3人は興奮気味の口調で口々にそう言って、手負のゴブリンをおうアルトを追いかける。


どういうわけかアルトは、血を流しながら鈍い速度で逃げるゴブリンにトドメを刺さなかった。


「何してんだ?」


「倒さないのか…?」


「わかんない…とりあえずついていこう」


3人は不思議に思いながらアルトの後をつける。


アルトは手おいのゴブリンと付かず離れずの距離を保ちながら、進んでいった。


やがて、彼の目の前に巣穴と思しき洞窟が現れる。


「あ、あれがゴブリンの巣穴か…!?」


「そうか…!ゴブリンを怪我させて、利用したんだ…!」


「すげぇ!!アルトリアの騎士すげーよ!!」


3人はすっかりアルトに夢中になっていた。


血を流しながら巣穴に入っていくゴブリンを追う形で、アルトは巣穴へと姿を消した。


「こ、ここで見張ってよう…」


「流石に中には入れないよな…」


「あの様子なら、多分すぐに出てくるだろ…」


流石に巣穴まで追いかけていく勇気がなかった3人は、出口付近の茂みに隠れて、アルトの帰りを待つことにした。



ゴブリンの巣穴へと入っていったアルトは半時間ほどで出てきた。


背中に、攫われた少女を抱えている。


「で、出てきた…!」


「すごい…中のゴブリンは全員死んだのか?」


「見ろ!何かするみたいだぞ!!」


3人が見守る中、アルトは一度少女を地面に下ろして、巣穴に向かって腕を向けた。


次の瞬間、アルトの手から炎が生み出され、巣穴に向かって発射される。


巣穴のゴブリンを一掃する魔法だ。


「わあああ!!」


「魔法だっ!!」


「すげえええええええ!!!」


3人は瞳を輝かせてアルトを見つめる。


巣穴からはしばらくゴブリンたちの悲鳴が聞こえていたが、やがて収まった。


あれほどの魔法を食らったら、ゴブリンたちはひとたまりもないだろう。


3人がアルトの魔法の威力にごくりと唾を飲む中、アルトは少女を背に村の方向へ向かって歩き始めた。


「すごかったな…」


「ま、まさかあの騎士があんなに強かったなんて…」


「お、俺たちもいつかあんなふうになれるかな…」


「修行とか、いっぱいしたのかな…?」


「聞いてみようぜ…?」


すっかりアルトに魅せられた3人は、しげみから出てアルトの元へ走ろうとする。


その時だった。


『グォオオオオオオオ…』


背後から低い唸り声が聞こえてきた。


「「「…!」」」


3人は恐る恐る振り返る。


『グォオオオオ…』


体長5メートルはあるモンスターが、3人を見下ろしていた。


緑色の皮膚、額のツノ、ぎょろぎょろと動く眼球。


まるでゴブリンをそのまま巨大化させたような見た目。


戦闘職になるのが夢で、日頃からモンスターに関する知識を集めている3人は、そのモンスターがなんなのかを知っていた。


「ゴブリン…キング…」


ゴブリン・キング。


ゴブリンたちを束ねる王である。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る