第34話


助けた少女と共に巣穴を脱出した俺は、巣穴に残るゴブリンを焼き払うために魔法を使った。


紅蓮の炎が巣穴に向けて発射されて、中にいたゴブリンたちを焼き尽くす。


『『『ギャアアアアアアアア!!!』』』


巣穴からは焼かれるゴブリンたちの悲鳴が聞こえてきた。


だが、やがて小さくなっていき、遂には全く聞こえなくなる。


おそらくこれで巣穴のゴブリンは死滅したことだろう。


これでゴブリンが繁殖することも、村が襲われることもなくなるはずだ。


「終わったぞ。さあ、帰ろう」


俺は少女の方を見て、言った。


「もうゴブリンはいない?」


「ああ。全部やっつけた。村に戻ろう」


「ありがとう!お兄ちゃんっ!!」


少女が抱きついてくる。


俺は小さな体を抱き上げ、背中に背負ってから村へと戻ろうとする。


その時だった。


「うわあああああああ!!!サンタあああああああああ!?!?」


近くの茂みから人間の叫び声が聞こえてきた。


「なんだ?」


俺は少女を背負いながら、声のした方向へ向かう。


走りながら索敵魔法を使うと、前方に四つの気配が確認できた。


四つのうち三つは、どうやら人間の子供のようだ。


あとの一つは、ゴブリンよりも一回り強い存在感を放っている。


「まさか…」


俺はおそらく襲われているであろう子供たちを助けるために足を早める。




時は少し遡る。


アルトがゴブリン退治のために村を訪れたとき、その様子を影から見守る三つの小さな影があった。


この村の悪ガキ3人組だった。


ケルト、サンタ、エギル。


3人は戦闘職に憧れており、今日村に騎士が訪れるというので朝から村の入り口で見張っていたのだ。


「あれが騎士か…」


「なんかあんまり強そうじゃないぞ?」


「あんな奴にゴブリンの巣穴が潰せるのか?」


ぱっと見普通の青年の見た目のアルトを、3人は訝しがる。


アルトを観察していると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。


弾かれたようにアルトが悲鳴に向かって走り出す。


「速い!」


「も、もう見えなくなったっ!!」


突然走り出したアルトに、3人は追いつこうと走り出すが、アルトとの距離はグングン離れていく。


気づけば3人はアルトを見失っていた。


「どこ行ったんだ?」


「わからん…」


「まさかもうゴブリン退治に向かったのか?」


3人は周囲を見渡す。


すると、森の方に向かって期待するような眼差しを向ける、この村で唯一の靴屋の夫婦がいた。


「ねぇ、おじさんおばさん」


「ここら辺で騎士を見なかった?」


「ゴブリン退治にきた騎士だよ」


3人が尋ねると、夫婦は答えてくれる。


「アルトリア家からきてくれた騎士のことかい?」


「それなら…今、私たちの娘を助けるために森の中へ入ったよ」


2人は森の方向を指さした。


「行こう!!」


「追うぞ!!」


「まだそう遠くへ入ってないはずだ!!」


3人はすぐさまアルトを追いかけて森の中へ入っていく。


「あっ、君たち!!」


「森の中は危ないわ!!帰ってらっしゃいっ!!」


夫婦の制止の声も聞かず、3人はどんどん森の奥へと入っていった。


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