第77話


「うぅ…寒い…どこからか隙間風が入っている…」


狭いぼろぼろの宿の一室で、一人の男が敷かれた藁に身を埋めていた。


体はすっかりと痩せこけ、寒さにブルブル震えている。


安宿のため、どこからか空いた隙間から外気が侵入して、外と温度が変わらないのだ。


「どうして私がこんなことに…」


男はつい最近まで『青銅の鎧』というトップギルドのギルドマスターを務めていた。


ギルドメンバーを安い給料でこき使い、利益を吸い取って自分だけは贅沢な暮らしをしていた。


だが、ある男をギルドから追放したことで、『青銅の鎧』は最終的に崩壊する道を辿ってしまった。


側近から無能だと聞かされていたその男は、実はギルドを支える屋台骨であり、そうとは知らずに追放してしまったために、ギルマスはこんな安宿に泊まるのがやっとなほどに転落してしまったのだった。


「くそぉ…ガイズのやつめぇ…私がこんなことになったのも全てあいつのせいだぁ…」


ギルマスは、恨みがましくそう呟く。


ガイズとはかつての『青銅の鎧』における側近であり、ガイズの進言によってギルマスはギルドの屋台骨である『アルト』という冒険者を追放してしまった。


全てはそこから始まった。


ギルドを支えていたアルトが抜けたことにより、ギルド所属の冒険者たちは満足にクエストをこなせなくなり、結局最後には大貴族から直々に指名された依頼すらも失敗して、ギルドは崩壊した。


ギルドメンバーたちは全員ギルドをさっていき、ギルマスとガイズには裁判によって多額の賠償金が課せられた。


「ま、まぁ…借金から逃れられただけでもよしとするか…」


大貴族との裁判に負け、支払うよう命じられた賠償金は残ったギルドの資産で支払えるような額ではなくギルマスとガイズは借金を背負うことになった。


そうしてギルマスが取った選択は、借金を全てガイズに押し付けて逃亡することだった。


おかげで、借金を支払えずに牢屋にぶち込まれるようなことは今のところない。


だが、以前に比べて現在の生活は極貧と形容しても足りないぐらいのもので、ギルマスはどうにかしてかつての地位に返り咲けないかと思案していた。


「もう一度有能な冒険者を一から集めて…いや、無理か…私の悪評はもう界隈に広まってしまっている…有能な冒険者が雇われてくれるとは思えない…」


狭い部屋で寒さに震えながら、ギルマスがああでもないこうでもないと考えていた、まさにその時だった。


ドガァアアアアアン!!!


凄まじい破壊音と共に、安宿の壁が破壊された。


「な、なんだぁああああ!?」


たまたま反対側にいたため、かろうじて大怪我を免れたギルマスは驚きに跳ね起きる。


壊れた箇所から、一人の男が部屋へと入ってきた。


その人物を見たギルマスは驚きに目を見開く。


「が、ガイズ…!?どうしてここに…!?」


「よお、ギルマス。久しぶりだなぁ…」


そこに立っていたのは、借金を全て押し付けた張本人、『青銅の鎧』参謀のガイズだった。



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