第78話


「ほ、本当に…ガイズ…なのか…?」


ギルマスは震え声で尋ねる。


突然現れたガイズの身に纏う空気が、依然と比べて明らかに変化していたからだ。


ギルマスはガイズからこれほどの『強者の威圧』を感じたことはかつてなかった。


ごくりと、ギルマスの喉が鳴る。


「ようやく見つけたぜぇ、ギルマスぅ…てめぇ、こんなところに隠れてやがったのか」


「ひ、ひぃ!?ま、待てガイズ…!落ち着け…!」


入ってくるなり殺気を振りまくガイズに、ギルマスは悲鳴のような声をあげる。


「ギルマスぅ…よくも俺に借金押し付けてトンズラこきやがったなぁ…?おかげで俺は飢えて死ぬところだったんだぞぉ…?」


「す、すまなかった…!悪かったと思っている…!だが、仕方がなかったんだ…!」


下手を打つと言葉で殺されかねない。


ガイズのそんな気迫を感じたギルマスは、地面に額を擦り付けて謝る。


そんなギルマスの後頭部を、ガイズが踏みつける。


「あぎっ!?」


硬い地面に頭を打ち付け、ギルマスが悲鳴を悲鳴をあげる。


ガイズはゆっくりとギルマスを踏む足に体重を乗せていった。


「い、痛い!?痛い痛い痛い!?やめてくれガイズ…!死んでしまう…!」


「やめねーよ?ギルマスぅ…俺はあんたを殺しに来たんだぁ…!」


「あぎぃいいいいい!?」


ギルマスが痛みに絶叫する。


バタバタと手足を振り回して抵抗するが、頭は地面とガイズの足の間に固定されたまま動かない。


ガイズはギルマスを踏みつけながら、恍惚とした表情を浮かべる。


「ギルマスぅ…以前の俺はよぉ…なんとかあんたに取り入ろうと必死だったぜ…やがてはこの俺が『青銅の鎧』のギルマスになるためによぉ…アルトや他のメンバーたちの功績を利用してセコセコ評価を積み重ねたもんだ」


「いぎっ、いぎぃいいいいいいい!!!」


「でもよぉ…もう、その必要はねぇんだよぉ…俺はなぁ…力を手に入れたんだ…!ある人のおかげで…!その人はよぉ…俺が選ばれた人間だって言ってくれたんだよぉ…!俺には類稀なる才能があるってなぁ…!」


「あひっ…ひっ…ひぎぃいいいいい…」


ギルマスが限界の悲鳴をあげる。


直後、メキメキという音を立ててギルマスの頭部が変形を始めた。


「〜〜〜っ!!!」


ギルマスの体はビクビクお痙攣し、口からは血の泡が噴き出ていたが、それでもガイズは足を退けなかった。


「ギルマスぅ…わかるか?俺は選ばれたんだ…!俺には力があるんだ…!今ならなんだって思い通りにできる…!この力があれば、どんなモンスターだってイチコロだ!あんたを殺した後に……あのアルトも、殺してやるぜ…!くひひひひ!」


グシャッとギルマスの頭が潰れた。


トマトのように脳漿が潰れて地面に広がり、血生臭い匂いが周囲に漂う。


「うえっ、きったね」


ガイズはゴシゴシと地面に血のついた足を擦り付けた。


「あはは…ざまぁねぇな、ギルマスぅ。俺に借金を押し付けて自分だけ逃げるからこんなことになるんだ」


ガイズの目は爛々と輝き、口元からは異様に尖った歯が除いている。


顔もうっすらと紫色に染まり、その見た目はもはや人間の域を逸脱していたが、当の本人が気付くことはない。


「ふぅ…じゃーな、ギルマス」


ペッとギルマスの死体に唾を吐いたガイズが背を向けて歩き出す。


すると物陰から、一部始終を観察していた人物が出てきて、ガイズに歩み寄った。


「終わったか?」


「ああ、終わった」


ガイズが頷くと、フードの奥で男がニヤリと笑った。


「そうか。ふふ。自分の赴くままに、力を振るうのは気持ちいいだろう?」


「…あぁ、最高だ」


ガイズが恍惚とした表情を浮かべる。


それを見たフードの男は、ますます怪しげに笑う。


「もっと力が欲しいか?」


「あぁ…欲しい…!」


即答するガイズ。


フードの男は、ガイズの耳元で静かに呟いた。


「だったら…私に協力してもらう。更なる力は……その後だ」



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