第53話


あぁ…私は馬鹿です。


底抜けの馬鹿です。


過去の失敗から何も学ばないお間抜けさんです。


どうもニーナ・アルトリアです。


私は今朝、市場へ買い物に出ていました。


お目当ては、新鮮な食材。


最近私は料理に凝っているのです。


なぜかといえば、それはアルト様に私の手作り料理を食べてもらうためです。


屋敷の使用人が言っていました。


男性の心を射止めるには、胃袋を掴むのが手っ取り早いと…


…はい。


隠してもしょうがないので白状すると、私はアルト様が好きです。


アルト様は今まであったどんな男性よりも強くてかっこいいです。


助けていただいた時から、アルト様のことを意識していたのですが、最近自分の好きだという感情にようやく気づけました。


こんなことは初めてです。


恥ずかしながら、今まで男性に好意を寄せられ、思いを告げられた経験は何度かあったのですか、私自身あまりピンとこず、全て断っていました。


でも今ようやくわかりました。


これが好きだという感情。


私はアルト様にすっかり夢中です。


そんなアルト様に喜んでもらえるような料理を作りたい。


その一心で私は市場へと出かけていったのです。


そしてまんまと攫われてしまいました。


私を罠に嵌めたのは、一見優しそうなお婆さんでした。


「やあやあ、可愛いお嬢さん。何をお求めですか?」


「新鮮で、美味しくて…それから男性に人気のお肉を教えて欲しいです」


「男性に人気…あら、もしかして想い人に手作り料理でも振る舞うのかい?」


「は、はい…えへへ…」


「あらぁ、そうかい。可愛らしいねぇ…それじゃあ、お嬢さん。こっちにおいで。店の奥に今仕入れたばかりの新鮮な肉があるんだ。お前さんに特別に売ってあげるよ」


「本当ですか!?ありがとうございます…あっ、お二人はここで待っていてください。すぐに戻ります」


「「はっ」」


私は従者をその場に待たせて店の奥へと入っていきます。


相手がお婆さんだったので完全に油断していたのです。


「うふふ…今日は稀に見る別嬪が釣れたねぇ…これは高く売れそうだ」


「へ?」


店の奥には男の人たちが待機していて、あっという間に私を取り押さえました。


叫べないように猿轡をかまされて、私は店の裏口から男たちに運ばれていきます。


こうして私はまたまんまと人攫いの罠にかかり、連れて行かれてしまったのでした。



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